展示会レポート「IPF2020バーチャル」

1.はじめに

IPF2020はオンライン開催で2020年11月18~20日に開催され、2021年5月21日まで継続展示期間として一部資料が閲覧可能であった。

参加者は事前登録してアカウントを取り、オンライン上の各ブースを訪問して、チャット機能で説明員と会話したり、資料ダウンロードができる仕組みであった。ただし、オンラインチャット機能は不具合があり機能しなかった。

オンライン展示会は会場まで行く必要が無く、また、隙間時間を使って訪問できる利点はあるものの、説明員と来訪者がFace to Faceで会話できず、説明員が興味ありそうな来訪者に声をかけるということもできず、ストレスが残るイベントであった。

通常の展示会であれば、報道関係者は「プレス」として入場でき、写真や動画の撮影に対しても特別に配慮してもらえるが、IPF2020バーチャルではプレスの区別が設定されていなかった。配布資料についてもダウンロード資料に「confidential」表示されたものもあり、配布資料からの引用がしにくい。

本稿ではIPFの中心に据えられている射出成形機メーカーの展示に絞り、IoTおよび生産管理、射出成形機の機構と制御、特殊成形技術について報告する。なお、上述の理由により写真や配布資料からの引用は行なわず、文章のみのレポートとした。

2.IoTおよび生産管理

(株)日本製鋼所はIoTツールであるプラスチック射出成形用「J-Wiseソリューション」を発表していた。その中で「NET100」は射出成形機のデータ収集システムであり、24時間監視により不良時にアラームを出す(見える化)、経年劣化するパーツにセンサーを取り付けて情報を得て交換タイミングを知らせる(維持保全)等を行う。「AIモールディングナビゲータ」は成形品の画像データや成形データを常時監視して、不良発生を未然に防いで24時間無人生産の支援を行う。

住友重機械工業(株)の生産管理システム「i-connect」は、生産現場のさまざまな機器をネットワークで接続するものであり、成形機と周辺機器の運転データをまとめて一元管理し、過去の稼働データを呼び出して改善につなげることを可能にしている。また、モバイル端末に対応しており、端末から運転日報をペーパーレスで作成することも可能にしている。

芝浦機械(株)の「iPAQET code system」は成形機、金型、材料、取出機にそれぞれ固有の二次元バーコートをつけておき、その組み合わせから自動で条件を読み出しするものである。これを使うと、材料の色ごとに別々なコードを与えておけば、色ごとに決まった条件が立ち上がる。また、同社のIoTソリューションを使うことで、「iPAQET」による遠隔コントロールや、製品に印字された二次元バーコードによる製品管理が可能になる。

(株)ソディックは「V connect」、「eV-LINE MR30」、「ICF-Vスケジューラー」を紹介していた。「V connect」は射出成形機を接続して稼働状況や各種履歴を管理し、蓄積した成形データをモニターして抽出ができるシステムであり、最大20台の成形機が接続可能である。自動生産システム「eV-LINE MR30」は電源ON→金型と樹脂をセット→シリンダーと金型を昇温→パージおよび廃材処理→生産開始→生産→生産終了→次工程へ ・・・→すべての生産終了後の終了作業(降温)→電源OFFをすべて自動で行うシステムである。「ICF-Vスケジューラー」は最適な生産スケジュールを組んで、自動生産を行うシステムである。

3.射出成形機の機構と制御

芝浦機械(株)の全電動射出成形機「EC-SXⅢ」は金型取付時の型厚調整にかかる時間を大幅に短縮でき、コアバック時の型開量の繰返し制度も大幅に向上させた。

(株)日本製鋼所の横型成形機ではトグル式の大型機投入(「ADS」シリーズでは550トン~850トンワイド、「AD」シリーズでは2500トンと3000トン)が行われ、2プラテンハイブリッドタイプの「J-F」シリーズでは1800トンと3000トンが投入された。「J-F」シリーズは4軸並行射出プレス制御を可能にしている。また、ダイレクトモーターの採用により高負荷高速、長時間保圧に対する対応力が上がるとともに、フィルムインサート成形の端部における樹脂漏れを抑制のための微調整が可能になった。

宇部興産機械(株)は宇部と三菱の技術融合を前面に出して、新モデルの紹介を行っていた。電動トグルの最新モデル「HH(Dual H)」は射出ユニットの高応答性とハイパワーのためにダイレクトドライブモーターを採用した。2プラテンタイプではハイブリッド成形機「emⅢ」をラインナップに加えた(1050トン、1300トン)。ダイレクトドライブモーターを採用することでハイパワー化を実現している。

住友重機械工業(株)は特殊仕様の成形機を紹介していた。二材射出成形機「SEHS-CI」は、ダイレクトドライブモーターを用いた射出ユニットを持ち、金型反転装置も高速化されている。反転盤が90度位置で停止するため、金型の上下での作業が不要になる。高速・高応答全電動射出成形機「SEEV-A-SHR」は、射出速度の立ち上がりが早いことから充填時間を短縮でき、高応答型締装置により、型締力を自在に制御(充填時:低、保圧時:高、冷却時:中→低)できる。また、保圧中後退スクリュー速度制御により、保圧工程の1段目でスクリューを後退させてゲート付近の樹脂の応力を緩和させることができる。

(株)ソディックは計量時のベントアップを未然に防ぐ「AI-Vent」、可塑化シリンダー内での酸化を防ぐための低酸素可塑化システム「NRPs」を紹介していた。竪型成形機では、ハイサイクル小型ロータリー成形機「HC03VRE」を紹介していた。インサート成形を自動で行うためのシステム構築が可能になる。

東洋機械金属(株)は可塑化工程における酸化劣化を防ぐ方法として、加熱等脱気システムと窒素ガス供給システムを紹介していた。また、生産性を向上させる手法として、キヤノン(株)が開発した「シャトルシステム」と呼ばれる、1台の成形機で2つの金型を交互に成形するシステムを紹介していた。冷却時に金型を成形機の外に出すことで、成形機の稼働率を高めることができる。

(株)ニイガタマシンテクノは、長時間保圧時にボールねじを正逆回転を繰り返す「ブルブル成形」、保圧切り替え時にスクリュー前進を一定時間停止させる「BPF制御」を紹介していた。

4.特殊成形技術

日精樹脂工業(株)はK2019でも成形実演していた透明PLAの薄肉成形を紹介していた。「MuCell」技術を応用して二酸化炭素をPLAに溶解させることで流動性向上をねらった技術である。

(株)ソディックは「V-LINE 不活性ガス溶解射出成形システム」を発表した。専用の射出プランジャーから不活性ガス(主に二酸化炭素)を導入し、一度可塑化ユニットに戻して混合する方式を採用している。PLAを成形した場合、0.4mm厚みで18.7%の流動長伸長効果が得られたと報告されている。

東洋機械金属(株)は3種類の物理発泡成形技術を紹介していた。1つ目は「MuCell」であり、2つ目はIPF2017で参考出展(実演)されていたノズル付近から超臨界流体を導入する方式「N-MCP」、3つ目は参考出展としての液体注入による発泡技術「L-Foam」である。「L-Foam」は発泡剤として重曹溶液やアルコールをバレルあるいはノズルから注入する技術である。

(株)日本製鋼所は物理発泡成形技術として、「SOFIT」を紹介していた。特にガラス繊維強化ポリアミドのように発泡剤である窒素の添加量の最適値が小さい材料に対しては適している。一方でポリプロピレンを対象にする場合はガスの供給圧力を高くする必要があり、気泡の微細化に課題が残るようである。同社は移動可能なサブ射出ユニット「FLiP」も紹介していた。IPF2017でも成形実演されていたユニットであり、スクリュー径は18~32㎜が用意されている。

宇部興産機械(株)はトグル式射出成形機の型開閉精密制御「DIEPREST」の応用技術を紹介していた。「AIRPREST」は射出工程で微小な型開によってガス抜きを行うことで、製品中央部やウェルド部分の製品表面温度を下げて成形サイクルを短縮する技術である。「DIEPREST」の高精度型締多段制御技術はコアバック発泡のキャビティコントロールに実績が十分あるが、今回はそれに加えて2プラテン機におけるコアバック制御の紹介もあった。既存の型開閉用ボールねじに加えてコアバック用ボールねじを新設して型開を制御するものである。この辺りに宇部と三菱の技術融合が見られる。

5.おわりに

展示会の視察で一番楽しいことは、出展者とディスカッションすることで、出展者も気が付いていない新しい価値を見つけることである。今回は出展者とのディスカッションがほとんどできなかったため、フラストレーションを残しながらのレポートになった。そうしているうちにK2022が1年後に迫っている。