プラスチックごみ問題解決に向けて行動する年を迎えるにあたり

1.はじめに

2020年はコロナに明けてコロナに暮れた1年であった。それと同時に海洋プラスチックごみ問題が待ったなしであることが広く認識されてきた1年でもあった。身近な出来事では、レジ袋の有料化により、多くの人が脱プラスチックを意識し始めた。プラスチック代替素材は、それはそれで製造している企業にとっては必至であり、ある意味千載一遇のチャンスとばかり宣伝活動に力が入っている。

しかし、結論から言うと、コロナから我々を守るために多くのプラスチック製品が使われ、プラスチックが人々の健康・安全を守っていることが示された。単純にプラスチックを無くしたり減らしたりする行動は人々を幸福にしないのである。人類の歴史は省エネルギー化と行動範囲の博大の歴史である。プラスチックは消費エネルギーの大幅な削減をはじめ、多くのメリットをもたらしている。我々人類はこのプラスチックという大発明と上手に寄り添わなければならない。

本稿では、SDGsとの関係にも触れながら、今後のプラスチックとの付き合い方について私見を述べる。

2.プラスチックのプラスの側面とマイナスの側面

SDGsとは、持続可能な開発目標のことであり、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標で、17項目の目標から構成されている。

図1 SDGsのシンボルポスター

「開発」という言葉が入っているように、原始時代に戻るのではなく、すべての人が今よりも幸せになるような進歩を促す目標である。17の目標はどれかを選んで達成を目指すものではなく、トレードオフを上手に解決して「すべて」を達成する必要がある。

2-1 プラスチックのプラスの側面

安定的な農作物の生産のための温室用フィルムやマルチフィルムや、化学肥料の過剰な使用・追肥の労力削減のための樹脂コーティング肥料は農業の生産性向上と過剰な肥料成分による地下水汚染の抑制に貢献している。(目標2)

マラリアの根絶のために、プラスチックの配合技術が活かされて殺虫効果を持つ蚊帳、医療機関における二次感染防止に活躍するディスポーザル品(シリンジ、輸液バッグ、点滴チューブ)は人々を守り、使用後は適切に焼却処分されている。プラスチック使用された検査キットにより、検査の効率が上がっている。(目標3)

プラスチックの上水道、下水道の管により、配管の破裂や継ぎ目からの漏水を防ぐことができ、安定的に上水、下水を運ぶことができるようになった。貧困地域への食糧支援の一環で、PETボトルに充填された水が届けられている。(目標6)

風力発電や太陽光発電の効率化にはプラスチック素材が不可欠である(風力発電のブレード、太陽電池の封止シート)。また、リチウムイオン電池のセパレーターフィルムもプラスチックである。(目標7)

食品の鮮度を保ち、細菌やウィルスから保護して安全に人々に届けるためにプラスチックの容器・包材が貢献している。少量の包装や個包装により開封後の食品の劣化によるフードロスも抑制している。(目標12)

2-2 プラスチックのマイナスの側面

プラスチックはその特性から、使い捨て(ワンウェイ)の用途が多く、使用済みプラスチックが大量に発生している。正しく処理されてエネルギーや資源として活用されているものも多いが、ごみとして環境に流出しているものも大量にある。(目標12)

漁業の現場で使用された漁網や浮きが海に取り残されてごみになるケース、陸上や水辺で不法投棄されたり、集積場から流出したプラスチックごみが海に流れ込むことで、海洋に大量の使用済みプラスチックごみが存在している。(目標14)

3.使用済みプラスチックの行方

プラスチックの使い方によって、使用済みプラスチックが回収可能(人の管理下にある)なものと、回収不可能なものがある。回収可能な使い方であってもイレギュラーに回収できなくなることもある。使用済みプラスチックに対しては、回収したものをどのように処理するか、イレギュラーに回収できなくなる事例をどのようにして減らすか、イレギュラーに回収できないケースに備えてどのような製品設計を行うかを考える必要がある。回収可能/回収不可能と想定・計画内/イレギュラーのマトリックスを図2で示した。

図2 使用済みプラスチックの流れのマトリックス

図2中の4分割のそれぞれで対応方法が違ってくる。「1」は人の管理下にあり、利用されるべきものであり、より合理的な活用を検討すべきものである。「2」の対策には、発生させないための対策と、将来発生するものに対する対策、すでに発生したものに対する対策がある。「3」の対策には、回収可能にするための対策と回収されずに残っているものに対する対策、将来発生するものに対する対策がある。「4」の対策はイレギュラーに発生することを減らす対策と、将来発生するものへの対策、すでに発生したものへの対策がある。

4.プラスチックの特性を活かした循環社会へ

使用済みプラスチックのうち、ごみとして環境に流出するものの多くは使い捨て(ワンウェイ)用途である。過剰包装が問題にされているが、過剰包装と思われているものの多くは食品の多重包装であり、品質保持に必要で使われている。特にwith corona時代では食品を汚染から守る目的でプラスチックフィルムによる遮断は多く使われるようになるであろう。

プラスチックは安価で薄く成形でき、水や空気を遮断する特性があり、燃えやすい。これらの特徴がワンウェイ用途に最適であったためにいわゆる使い捨て用途が広がってきた。確かに使い捨てであるがゆえに不法投棄されたごみが溢れる状況を作り出している。

このような使い捨ての多重包装は決して悪ではないのだが、使用済みプラスチックを適切に処理する仕組みが必要である。最優先されることは「集めること」である。

プラスチックごみが環境に不法投棄される大きな理由は、倫理観の欠如であることは間違いないが、環境意識や倫理観だけでは人は動かない。やはり経済的な理由付けが必要である。いろいろなアイディアや仕組みづくりによって使用済みプラスチックに価値を与えることが可能である。

5.使用済みプラスチックに価値を与える考え方

次に使用済みプラスチックに価値を与える考え方をいくつか示す。これらの中には既に実施されている例もあれば、検討中のものもある。

5-1 レジ袋に価値を与える方策

筆者はエコバッグを使っていない。ただし、マイバッグとして市の指定ごみ袋を折りたたんで持ち歩いている。エコバッグもいつかはごみになる。どうせごみになるのであれば、ごみ袋で十分である。千葉県市原市のスーパーマーケットでは、有料のレジ袋が市の指定ごみ袋仕様になっている。ごみ袋として使えるというだけで付加価値がついているから不法投棄されにくい。同様に千葉市内のイオングループでもレジで千葉市指定ごみ袋を1枚売りしている。

5-2 本来の用途の機能よりも使用済みプラスチックとしての価値を優先する考え方

プラスチックには多くの種類があり、それぞれに長所短所がある。そのため、複合化(マルチマテリアル化)して高機能な部材が使われている。しかしながらマルチマテリアル化すると、本来の目的に対しての価値は上がるが、使用済みプラスチックとしては処理しにくいために価値が低くなる。

そこで、モノマテリアル化という動きが出てきている。ポリエチレンやポリプロピレン1種類だけで構成する容器・包材が出てきている。容器本体も蓋もすべて同じ系統の材料であれば使用済みプラスチックの価値は高くなる。しかもリサイクルしやすく、出口の製品バリエーションが広いポリオレフィンのモノマテリアル化は循環社会への光明である。

飲料水ボトルは性能の観点からPETが主流で使用されているが、リサイクルのためには厳密な乾燥が必要という問題やリサイクルPETの売り先が非常に限られるという問題もある。容器としての性能はPETに劣るが、PPはリサイクル性においてPETよりはるかに優れ、リサイクル品の売り先は広範囲に存在する。したがって、考え方を転換して非炭酸引用のボトルはPP化しても良いのではと考えている。

5-3 やっぱり必要なデポジット制

デポジットは空容器を返却することで預けた金額が返還される制度であり、空容器返却のモチベーションを高める制度である。50年ほど前には清涼飲料水の容器はガラス瓶であり、容器の保証金が上乗せされて販売されていた。リユースしにくいプラスチック容器でも回収率を高めるためにデポジット制を導入することも考える必要がある。欧州のプラスチック工業団体でもデポジット制については真剣に検討され始めているようだ。

デポジットは返却した人に返すだけではなく、環境問題解決のために寄付を求めることも可能であろう。さらに言えば、国境を越えて人道支援として送られた飲料水の容器は現地で回収することでデポジットが現地に寄付される仕組みがあっても良い。

6.プラスチックごみを燃やすことに対して

集めたプラスチックごみは分別されてリサイクルされるか、燃やされるか、埋め立てされるかに分かれる。 プラスチックの多くが輸入された石油を原料にしていることを考えると、石油の代わりに燃料として活用することは十分に合理的な活用方法である。また、最近は使用済みプラスチックから水素を取り出す技術も実用化されており、プラスチックが貴重なエネルギー源として第2の「人生」を送っている。

7.おわりに

With coronaの時代は脱プラスチックではなくwith プラスチックである。プラスチックに関する正しい付き合い方を伝え、教えることが我々専門家の役目である。