プラスチック加飾技術の基礎と動向
プラスチック製品に対する加飾技術について解説する。従来、プラスチックの加飾は塗装や印刷、めっきなどにより外観や質感を高めることを目的としてきたが、近年では素材そのものの色彩や表面形状を活かした表現も注目されている。本講義ではプラスチック加飾の代表例である造膜する(例えばめっき)、塗る(インクジェットを含む塗装・コーティング)、貼る(フィルム貼り合わせ、転写加飾)、「加飾しない加飾」(テクスチャー加飾や色彩による表現)等を解説する。
キーワード:加飾、塗装、めっき、スパッタ、フィルムインサート、金型内転写、色、テクスチャー、加飾しない加飾
1.はじめに
加飾とは飾りを加える意味であるが、歴史的には陶磁器や漆器に対して装飾を加える場合に使われた言葉である。プラスチックに対して加飾という言葉が使われはじめて30年くらいしか経っていない。図1に特許・実用新案検索でキーワードとして「加飾」を入力して実行した際にヒットした件数を年ごとに並べたグラフを示した。
プラスチックの加飾を技術的に分けると大きく3つに分けられる。1つ目はプラスチック製品の表面に装飾を施すための層を設けるものである。狭義にはこれがプラスチックの加飾である。2つ目は着色であり、3つ目は表面へのテクスチャー(鏡面および凹凸形状)である。
表面に設ける装飾のための層は、塗装・印刷、めっき・蒸着・スパッタ、フィルム貼り合わせ等多岐にわたる。それぞれは独立した技術であるが、最終的な目的はデザインを表現することで一致しており、それらの技術を包括するための言葉として加飾が使われるようになった。着色とテクスチャー加飾については、プラスチック加飾は一般的に通用するようになってから概念が拡大されて使われるようになった。
プラスチックは金属、セラミックス、ガラス、木材等の代替材料として用途を拡大してきた。プラスチックに囲まれた環境で生まれてきた平成生まれの方々がどのように考えているかはよく分からないが、昭和生まれの我々にとってプラスチックは冷たく安っぽいという印象が強く残っている。
プラスチックの成形品は大量生産技術が確立してから品質・性能が高まってきている。しかしながら、ここで言う品質は寸法や物性といった測定可能な項目のことである。一方でデザイン、見栄え、高級感といったような品質(質感)は個人の感性によるものであり、答えがひとつにならない。十人十色であり、時に蓼喰う虫も好き好きといった世界である。成形品そのものでは質感が低いプラスチック成形品に、装飾を施して顧客のウォンツを刺激することこそわれわれが加飾を行う目的である。
加飾技術の目的はプラスチックの特徴を活かしながら見栄えを良くすることにある。その一番代表的な手法は、高級感があると認識されている他の素材の質感を追求することである。例えば金属、木材、皮革等の質感に似せることである。その代表的な手段として、表面層に塗装、めっき、印刷、フィルム貼り合せ等を行って他の素材らしく見せる方法や、表面にテクスチャーを付与することでプラスチックに見えないようにする方法がある。その一方で、近年はプラスチックの特徴を引き出し、プラスチックにしかできないデザイン表現を目指す動きが強まっている。
2.プラスチック加飾の技術的分類
射出成形品に対する加飾を考える時、いつ加飾を行うかによる分類法がひとつであり、成形の金型内(インモールド)で行うものを一次加飾、金型から取り出して別工程で行うものを二次加飾と言っている。一方、手法で分類すると、造膜する、塗る、フィルム・シートを貼る、箔・インクを貼る、着色する、表面形状付与に分けられる。これらを金型内外の加飾と加飾手法で加飾技術を分類すると表1のようになる。
表1 加飾技術の分類
3.塗る加飾(塗装・インクジェット塗装)
3-1 塗装・コーティングの材料
塗装には塗料が用いられる。塗料とは、物の表面に広げて薄い層を形成し、時間の経過や加熱その他のエネルギー供給によって、その面に固着・固化して、目的とする性能を持つ連続被膜となるものである。塗装はその連続被膜を形成するプロセスである。塗装の目的には表面の保護、美観の付与、機能の付与等が挙げられる。我が国の代表的な伝統工芸である漆は表面保護と美観の両方が付与される優れた塗料である。表2にプラスチック用塗料の分類を示した。
表2 プラスチック用塗料の分類
プラスチック用の代表的な塗料の成分は揮発分(溶剤)、固形分(樹脂、硬化剤、顔料、添加剤等)から構成される。塗料の液滴は被塗装面を隙間なく覆うとともに、最終的に平滑な塗装面を構成する必要があり、塗料と塗膜では状態が異なる。塗られたばかりの塗膜(wet)が強固な塗膜に変化する工程が製膜と呼ばれる。製膜には、単純に溶剤が乾燥するだけのもの、塗料樹脂が酸素によって酸化されて架橋が進行するもの、硬化剤によって架橋が起こるものおよび、溶剤を使わずに液状のモノマーが紫外線によって重合して固化するものがある。溶媒には有機溶剤、水、超臨界二酸化炭素等がある。顔料は塗料に色彩を与える他、いろいろな機能を付与する成分である。
塗装は1層で済む場合もあれば、何層も積層する場合もある。加熱して架橋反応を促進させる工程を焼き付け(ベーク)というが、プラスチックの塗装では60~80℃の比較的低温で行われることが多い。〇コート△ベークという表現は〇層塗り、△回焼き付けることを指す。〇と△が等しい場合、1層塗るごとに焼き付けを行う。層の数が多い方が高機能になるが、コストも高くなる。
3-2 塗装・コーティングの技術
3-2-1 塗装
プラスチック成形品に塗装する場合、塗料をスプレーによって吹き付ける方法が多く採用されている。スプレーには空気を用いるエアスプレーと空気を用いないエアレススプレーがある。スプレーは作業員が手で持って行う手吹きや塗装ロボットが行う方法があり、被塗装品を回転させながら塗装するスピンドル塗装等がある。
3-2-2 金型内塗装
金型内塗装は樹脂と塗料の多材成形と考えるとわかりやすい。すなわち1ショット目にプラスチックを射出し、キャビティを入れ替えて一次成形品の上に無溶剤で硬化型の塗料を流し、金型内で反応固化させる。塗装の表面は金型キャビティの表面状態で決まるので、鏡面のみならず、シボ加工も可能であり、さらには鏡面とシボ面の両方を持たせることも可能である。金型内塗装によって、10㎜以上の透明層を設けることも可能である。
3-2-3 インクジェット塗装
インクジェット塗装は着色した紫外線硬化性樹脂を成形品上に吐出した後に紫外線を照射して固化させることで、フルカラーの図柄を描くことが可能になる。紫外線硬化性樹脂として高粘度のタイプを使用すると、重ね塗りによって凹凸を表現することも可能になる。色彩と凹凸を同調させることで、木目・石材・皮革・織物などの本物感を表現できる。
4.造膜する技術(めっき、スパッタ)
造膜による加飾にはめっき、真空蒸着、スパッタが含まれる。また、塗装の形態をとっているものの、銀鏡塗装はこの分類に入る技術である。成形品表面に物理的あるいは化学的に薄い層を形成する手法である。
4-1 めっき
プラスチックめっきの対象として代表的な材料はABS樹脂である。本来樹脂と金属を接合することは非常に困難であるが、ABS樹脂のめっきでは表面近傍に存在するブタジエンゴム粒子をエッチングによって取り除き、触媒処理した後、無電解めっき(酸化還元反応)を行うことで樹脂表面に金属層を生じさせるとともに、エッチングで生じたミクロンオーダーの空隙に浸透させ、アンカー効果によってしっかりと接合する方法が用いられている。ABS樹脂のめっきプロセスを図2に示した。
めっき層の密着性はABS樹脂中のブタジエンゴム相の形状に依存する。一般に成形品厚みが薄い、金型温度が低い、射出速度が速い等の高せん断を受けやすい条件ではゴム相が引き伸ばされて配向する。そのようなモルフォロジーの場合にはアンカー効果が小さく、めっき相の密着性は低下する。
4-2 真空蒸着・スパッタ
真空蒸着は通常10-3~10-2 Paに減圧したかまの中で蒸着する金属や金属酸化物を加熱蒸発させて成形品やフィルム上に付着させる方法であり、スパッタは通常10-1~1 Paに減圧したかまの中に置いた付着させる物質にイオンを衝突させることで飛び出した物質を成形品やフィルム上に付着させる方法である。図3に真空蒸着、図4にスパッタの原理図を示す。蒸着やスパッタによって形成される膜には、金属の連続膜、不連続膜、光学多層膜等がある。不連続膜は表面の導電性が無いため、電磁波を通す。光学多層膜は屈折率の異なる金属酸化物を多層に積層することで透過率や反射率を制御できる。
5.貼る加飾(三次元加飾)
三次元加飾は二次元形状のフィルムを用いて三次元形状に装飾を行う加飾技術のことを指す。フィルムを用いる加飾技術はフィルム貼り合わせと転写に大別される。フィルム貼り合わせは着色や印刷が施されたフィルムを成形品に貼る方法であり、転写はフィルム上に積層された印刷層や着色層(スパッタ層や蒸着層等を含む)のみを成形品に貼る方法である。
フィルム貼り合わせには、フィルムインサート成形(FIM)、インモールドラベル成形(IML)のように射出成形と同時に貼り合わせる方法と、成形品に後工程で三次元的に貼り合わせる方法がある。転写には、インモールドデコレーション(金型内転写)、ホットスタンプ(箔転写)、水圧転写、三次元フィルム貼り合わせ技術を応用した転写(例えば空気転写)等がある。
5-1 フィルム・シートの貼り合わせによる加飾
5-1-1 フィルムインサート成形
射出成形の金型内でフィルムやシートと貼り合わせを行う方法の代表的なものは以下の3通りの方法である。①金型内にインサートされたフィルム・シートを射出された溶融樹脂の熱と圧力で賦形して貼合する方法、②金型外で予備加熱されたフィルム・シートを金型にインサートし、真空引きによって予備賦形した後に樹脂を射出する方法、③金型外で真空あるいは圧空成形により予備賦形したフィルム・シートをキャビティ形状に切り出した後に金型にインサートして樹脂を射出する方法である。
インサート用フィルム・シートはポリカーボネート(PC)、アクリル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)が代表的であり、最近では深絞り性を高めたポリプロピレン(PP)も使用されている。フィルムインサート成形用の加飾フィルムは通常多層構成になっており、印刷や着色が為されたフィルムを保護層と接着層で挟んだ構成になっている例が多い。一方で、真空成形性に優れるシートやフィルムに対し、伸びのあるインクでインクジェット印刷する方法も開発されている。高粘度のインクを使用すると凹凸によって色彩と同時にテクスチャーの表現が可能になっている。
図5は予備賦形したシートを金型にインサートして成形によって積層する工法(上記分類の③)の概要を示した。金型にインサートされたフィルム上に溶融樹脂が流れることにより両者が熱接着される。射出条件を適切に設定しないと、フィルムが伸びてしわになったり、フィルムが敗れるトラブルが起こる。
近年は加飾用フィルムの代わりにCFRTPプリプレグを予備加熱後にインサートして行う複合成形も増えてきている。インサートされるフィルム上に電子回路を印刷しておくことで、成形と加飾と回路の組み込みが同時にできる。
5-1-2 真空成形を利用した三次元貼り合せ
真空成形の金型の代わりに成形品を置き、シートにはホットメルト接着層を持たせておくことで、三次元形状に貼り合わせすることが可能になる。三次元貼り合わせ工法の設備概要(布施真空のTOM工法)を図6に示した。
上下あるうちの下チャンバー内に設置された昇降装置に加飾する成形品をセットする。上下2つの真空チャンバーで加飾用フィルムを挟んだ後に上下とも減圧する。フィルムをチャンバー内に設置されたヒーターで加熱した後、昇降装置を上昇させながら上チャンバーに空気を入れることで、軟化したフィルムが伸ばされて成形品に密着する。加飾フィルムの下面には熱溶融型接着層があるため、加飾フィルムと成形品は強固に接着する。
熱板式減圧被覆成形はフィルムの加熱において熱板を用いる他は上記TOM工法と大きく違いが無い。違いはフィルム加熱時におけるフィルムの垂れ下がり対策である。TOM工法はフィルムの上下チャンバーの真空度に差をつけてフィルムの自重による垂れ下がりを防ぎ、熱板減圧被覆成形ではフィルムは熱板に密着することで垂れ下がりを防いでいる。
TOM工法のバリエーションとして、大きいものでは自動車1台を真空チャンバーにおいて、天井にシートを貼合することも行われている。
5-2 転写による加飾
転写とはベースになるフィルムに印刷が施された加飾フィルムを用いて印刷層のみを成形品に貼り、ベースフィルムは除去される加飾方法である。間接印刷と言われることも有る。プラスチック成形品に後工程で行われるオフライン転写と成形と同時に金型内で行われる転写に分けられる。
5-2-1 オフラインで行われる転写加飾
ベースフィルム上の箔やインクを成形品に転写して加飾する方法が、ホットスタンプと呼ばれる加飾方法である。ホットスタンプの箔の代表的な構成は[接着層/着色・印刷層/保護層/剥離層/ベースフィルム]であり、剥離層と保護層の間で剥離する。熱と圧力で箔を成形品に押しつけることで加飾することができる。刻印が上下するアップダウン方式と加熱ロールで圧着するロールオン方式がある。
水圧転写は、水溶性フィルムに印刷されたインクを有機溶剤で再活性化した後にフィルムを水に浮かべてフィルムを溶かし、水に浮いたインク層に成形品を押しつけて転写する方法である図7。水に浮いたインク層のみを引き伸ばすため、ベースフィルムとともに引き伸ばす他の転写方法に比べて大きく引き延ばすことが可能である反面、転写後に表面に残った水溶性樹脂を洗浄して乾燥し、トップコートを施す必要がある。
5-2-2 インモールドデコレーション(金型内転写)
金型に挿入された転写箔を、射出される溶融樹脂の熱と圧力を用いて転写する方法である(図8)。フィルムインサート成形と比較すると、フィルムをトリミングする工程が無いことが利点であるが、溶融樹脂の熱と圧力が過剰になるとインク流れと呼ばれるトラブルが起こることがある。そのため、転写箔に直接溶融樹脂が衝突しないようなゲートレイアウト(例えばゲートをリブに落とす)が必要になる。また、剝離したインクのカスが成形現場に浮遊すると不良の原因になりやすいので、注意が必要である。
5-2-3 パッド印刷(ベースフィルムを用いない転写)
これまで三次元加飾=フィルム加飾(貼り合わせと転写)という流れで解説してきたが、番外編としてパッド印刷についても触れる。パッド印刷は非常に柔軟なパッドにインクを一旦転写し、更にパッドから成形品に転写する方法である。用いられる版は二次元であり、色別に複数の版とパッドを用いることで多色にも対応できる。
6.加飾しない加飾
加飾しない加飾には、着色して質感を表現する技法や、表面の凹凸や鏡面形状によって質感を表現する技法であり、単一素材で表現できる。加飾しない加飾には色による意匠表現と表面形状による意匠表現が含まれる。
6-1 色による意匠表現
染料や顔料を用いる着色は表面と内部が同じ材質であるという点で、加飾層を持たない加飾に分類することもできる。ピアノブラックは透明性、光透過性をもった黒であり、透明顔料を複数組み合わせて成り立つ。最近の自動車部品用途では、ピアノブラックの部品から光が透過するディスプレイが提案されている。
金属調の表現には金属のフレークが着色剤として用いられることが多い。しかしながら、ウェルド部分でフレークの向きが変わることでくっきりと筋が見えることがある。その問題を解決するために成形金型の技術であるバルブゲートによる流動制御等による対策も行われている。
図9には2016年に東京で開催された高機能プラスチック展ユニチカブースに展示されたパール調およびラメ調の成形品であり、筆者が許可を得て撮影したものである。色調がはっきり表現できるように、ナノオーダーで分散させたクレーを充填剤として用いている。
6-2 テクスチャー加飾
テクスチャーとは、本来「織物の織り方や質感」という意味であるが、そこから「材料の質感や感触、特徴や表面の様子」等を指す言葉として使用されている。また、「シボ」は英語でtextureであり、テクスチャー加飾という言葉は筆者の造語である。テクスチャー加飾には、サンドブラスト、シボ、ヘアライン等の凹凸表現に加え、高品質の鏡面も含めている。
シボという言葉の語源についても簡単に触れておく。元々は皮革製品に用いる言葉であり、皮革製品の表面のシワ模様を「シボ」と呼び、皮革業界では革にしわを付けることをシボ付けするという。プラスチック成形品の表面に施す皮革のしわのような装飾模様もシボと呼ばれるようになった。また、皮革のしわの模様(皮シボ)以外に様々な形状のシボが使われている。
皮シボ以外のシボとしては、梨地(梨の実のようなザラザラ感をもったテクスチャー)、木目調、ヘアライン調などがある。また、触ると柔らかく感じるシボやしっとりと湿ったように感じるシボ、光を反射しない無反射シボなどの機能性シボも増えている。鏡面を表現することもテクスチャー加飾に含める。
6-2-1 シボ加工の方法
プラスチックの成形品表面に前述のようなシボのパターンを形成するためには、成形に用いる金型のキャビティ内面に凹凸を形成しておき、成形によって凹凸を転写する。金型キャビティ内面に凹凸形状を形成する方法には、化学的方法(エッチング)、物理的方法(切削)がある。今後は金属3Dプリンターによる直接的な造形による方法も使われるようになるであろう。
エッチングとは金属に対して腐食性を持つ薬剤によって部分的に除去する方法であり、除去された部分が成形品の凸部になる。成形品に凹凸を持たせたい場合、腐食除去させる部分と腐食除去させない部分を形成する。その代表的な方法としてフォトエッチングについて説明する。
フォトエッチングでは、金型キャビティのパターン形成したい部分(この時点で製品の形状の切削は終わっている)の全面にフォトレジスト(紫外線が当たると反応硬化して薬品に耐性を持つようになる材料)を塗布しておき、凹凸のパターンに対応する図柄を描いたフィルム(成形品上で凹形状にしたい部分を黒く描く)を重ねて露光し、未反応のフォトレジストを洗い落した後に薬液槽に浸漬して反応させる。ただ、この工程のみでは高さが2水準の非常に単純なパターンしかできないため、この工程を何度も繰り返して滑らかで上質な凹凸パターンを形成する。
切削によるシボ形成は近年活用の機会が増えている手法である。シボのパターンを3Dデータで表現して微小な工具で切削するのでデータが膨大になるが、コンピューターの性能が向上して実用的な技術になってきた。特に複数の形状パターンの遷移(パターンAから徐々にパターンBに移り変わるようなイメージ)のように形状データをコンピューター上で足し引きするような場合に圧倒的な強みを発揮する。レーザー加工によって3Dデータから直接金型表面に凹凸加工する技術も実用化されている。
6-2-2 テクスチャーを引き出す高転写成形技術
プラスチックの射出成形の基本は融かして流して固める工程であるが、実際には流す工程と固める工程は同時に進行する。金型は溶融プラスチックから熱を奪うための熱交換器であるため、より効率よくプラスチックを固化させるためには金型温度は低い方が良いが、充填する前に固化しては製品にならないから、充填と冷却のバランスと妥協で金型温度を決めている。
射出成形は金型の形状をプラスチックに形状転写する加工方法であるが、転写が起こるタイミングは金型内の圧力が最も高くなる時であり、金型内の樹脂は射出・保圧工程の間で転写に適する粘度範囲を保つ必要がある。融解したプラスチックは高温状態にあって、粘度が低い状態である。このような溶融した樹脂材料が冷たい金型の表面に触れると、その表面は瞬時に金型表面と同じ温度まで冷却され、流動性を失う。したがって、プラスチックが金型を転写するためは最適な粘度範囲がある。
金型の転写効率を高める代表的な手法にはヒート&クール成形技術、断熱金型技術がある。ヒート&クール成形を行うには、加熱と冷却を行うことができる金型と温度制御のための温調装置が必要である。加熱と冷却はどちらも短時間で行われる必要がある。特に冷却は金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた状態から開始されるものであり、成形品の特性に影響する。断熱金型とは、金型のキャビティ内面に熱伝導率が低い素材(例:ジルコニアなどのセラミックス)層を配置して、冷却が遅れるように設計されており転写が起こりやすくなっている。
図10は2022年にドイツのデュッセルドルフで開催されたプラスチックの国際展示会K 2022においてオーストリアのENGEL社が成形実演していた試作品の写真である。金型内面には凹凸加工されたセラミックスにシートを貼り付け、成形時に凹凸を転写したものであり、筆者が許可を得て撮影したものである。
7.おわりに
加飾技術は単に美観目的にとどまらず、機能付与目的で行われることも増えている。また、温室効果ガスの排出削減や資源循環の要求が高まるとともに、加飾しない加飾のニーズは高まると予想される。加飾工程を削減することはトータルのエネルギー使用量削減につながる。加飾層を設けないことはモノマテリアル化につながり、より資源循環がしやすくなる。
さらに、デジタルデータから直接金型のシボを切削する技術や、デジタルデータを用いた金型内面のレーザー加工技術が普及することで、これまでできなかった質感の表現が可能になり、加飾しない加飾の適用範囲が広がっていくと予想される。