発泡成形の基礎講座(4) 超臨界流体を用いた微細射出発泡成形
1 微細発泡成形とは
微細発泡成形技術はMIT産学協同高分子成形加工プログラム(1973年発足)から生まれた技術である。このプログラムは、プラスチックは化石である石油を原料にしているため、少しでもプラスチックの使用量を減らしたい、すなわち材料の物性を維持し、部品形状を変えることなくプラスチック材料を節約する技術を開発したいという動機からスタートしている。
プラスチック成形品の強度を決定づけるのは、プラスチックの内部に存在する小さな構造欠陥であることは理解されていた。そこで、その構造欠陥よりも小さなボイドであればいくら多くても強度に影響しないはずであると考え、ミクロンオーダーの微細気泡を多数発生させる方法の検討が開始された。微細な気泡を多数発生される方法として、超臨界流体を発泡剤として、飽和するまで溶解させて、急激な圧力や温度の変化を与えることで微細気泡を発生させることに成功した。
1980年代にMITで基本技術(基礎研究と応用開発研究)が確立し、1993年からライセンス事業としてTrexel Inc.に引き継がれ、MuCellⓇという名称で技術ライセンスされている(MuCellはTrexel Inc.の登録商標である)。微細発泡(マイクロセルラー)は、発泡セル径がおよそ100μm以下で、気泡密度が108個/cm3以上である発泡体であり、それを得る成形方法が微細発泡成形である。
開発当初は大幅な軽量化が可能といううたい文句であったが、近年では軽量化よりも寸法安定性、ソリ・ヒケ防止が主な目的として広く採用されている。また、最近になって、製品設計から見直すことで25%以上軽量化された例も見られている。
2 微細発泡成形と超臨界流体
微細射出発泡成形では、発泡剤として超臨界流体(窒素、二酸化炭素)が用いられる。液体の温度を上昇させていくと分子運動が盛んになり、気体の圧力を上昇させると分子間距離が近くなる。
高温高圧の条件にすると、「分子間距離が近く分子運動が速い」状態にたどり着き、もはや液体と気体の区別がつかなくなる。この液体と気体の両方の性質を併せ持った状態を超臨界状態と呼び、その物体を超臨界流体と呼ぶ。また、このような状態が得られる温度,圧力をそれぞれ臨界温度(Tc),臨界圧力(Pc)と呼ぶ。
発泡成形の発泡剤として用いられる窒素と二酸化炭素の臨界温度,臨界圧力はそれぞれ、窒素:Tc=126 K(-147.0 ℃),Pc=3.39 MPa,二酸化炭素:Tc=304.2 K(31.1℃),Pc=7.37 MPa である。
超臨界流体を発泡剤として用いる利点の一つは注入量が正確に制御できる点にある。詳しくは微細射出発泡成形のための設備の項で触れる。超臨界流体を用いるもうひとつの利点は、圧力が高いことにより大量の発泡剤を溶融プラスチックに溶解させることができることである。大量に溶解させて急激に減圧することで大量の気泡を発生させる。
3 バッチプロセスによる微細発泡
バッチ発泡は、予備成形されたプラスチック成形品をオートクレーブに入れ、超臨界流体に浸漬し、圧力解放あるいは加熱によって気泡を発生させる発泡成形法である。プラスチックに溶解するガスの圧力が高いほど、温度が低いほど良く溶ける。したがって、飽和させた後に急激な減圧あるいは昇温によって気泡を発生させることができる。
圧力解放によって発泡させる場合は、オートクレーブ中でプラスチックのガラス転移温度(Tg)以上を維持しながら急減圧する。昇温によって発泡させる場合は、オートクレーブ中でいったんプラスチックのTg以下まで冷却し、ガスが含浸したプラスチック成形品を取出してから急速加熱する(図1)。
この方法の特長は、大量の物理発泡剤(ガス)を溶解して多数の気泡を発生させることと、Tg付近で発泡させるために気泡の粗大化が避けられて微細気泡が得られる点にある。図2には特許1)に記載された微細気泡の写真を示した。
4 バッチから射出へ
MITの初期の特許には、上記バッチプロセスを射出成形に適用するアイディアが示されている1)。図3に示すプロセスは、成形するプラスチック材料にガスを予め飽和量まで均一に溶解させておき、気泡が生じないように加圧を維持しておく。
その後、加圧して気泡核の生成を防いだ状態を維持しながら成形を行う。成形した後に圧力を解放して、プラスチック材料のガラス転移温度付近まで昇温することで気泡核を生成し、急激に冷却して固化させることで微細気泡構造を得る方法である。
この方法を射出成形にプロセスに適用するには、気泡の成長を防いで成形する工程や金型内でガラス転移温度付近まで昇温する工程に困難があり、実用化されていない。
5 成形プロセスで行う微細発泡の基本原理
図4はMITによる特許2 )に示されているプロセスの概念図である。まず発泡剤である超臨界流体を溶融したプラスチックに混ぜる。混合が進むと完全な溶解に到達(単一相溶解物)する。単一相溶解物は英語でsingle phase solutionであり単一相溶液という記述もあるが、超臨界流体にプラスチックが溶けるのではなく、プラスチックに超臨界流体が溶けるので、「溶解物」としている。
ここで高圧を維持していると単一相は維持されるが、急に減圧すると、発泡剤は過飽和となり気泡を生じる。この変化が急激であれば急激であるほど同時に多くの場所で気泡が発生する。
すなわち減圧が急激であるほど気泡の数は多くなり、個々の気泡は小さくなる。溶融プラスチックに溶かす超臨界流体の量も発生する気泡の数に影響する。溶解量が多いほど気泡数が多くなる。次に気泡を含んだ溶融プラスチックを冷却固化させると気泡の成長は停止する。
発泡剤である超臨界流体の溶解量は、溶融プラスチックにかかる圧力が高いほど多くなる。ここで重要なことは、減圧までは溶解の維持に必要な圧力を維持して単一相溶解物を維持することである。単一相が形成できず、発泡剤が局在する部分が存在すると後述する粗大気泡(ブリスター)が発生する。減圧速度が緩やかであると、発生する気泡数が少なく、個々の気泡径は大きくなる。
6 微細射出発泡成形のための設備
微細射出発泡成形を行うためには専用の設備が必要となる。具体的には、①超臨界流体発生・供給装置、②超臨界流体注入装置、③専用のバレル、④専用のスクリュー、⑤シャットオフノズルが必要となる(図5)。
超臨界流体発生・供給装置は、ガス源(通常はボンベ)から供給される窒素や二酸化炭素をブースターポンプで加圧して超臨界流体を生成する機能と超臨界流体を一定の流量で送り出す機能を担っている非常に重要な装置である。
ここから送りだされた超臨界流体は超臨界流体注入装置を介して成形機のバレル内に注入される。微細射出発泡成形では、計量工程内の一定時間だけ注入が行われ、それ以外の時間においては、バイパス弁を介して超臨界流体発生・供給装置に回収される。
1回の計量工程における超臨界流体の注入量は超臨界流体発生・供給装置が送り出す流量と注入時間の組合せで決まる。超臨界流体は一度に多く注入しないように注意する必要がある。通常は計量時間の約50%の時間をかけて注入する。同じ重量の超臨界流体を注入するならば、注入時間を長く、流量を小さくする方が均一な混合が実現できる。
一般的に、物理発泡剤の供給方法には液体ポンプ方式とガスポンプ方式がある(図6)。
(a)の液体ポンプシステムは発泡剤として二酸化炭素を使用する際によく用いられるシステムであるが、窒素に適用できない。ポンプの吐出量を安定させるために、ポンプと減圧弁(下流側の圧力を制御する弁)の間に背圧弁(上流側の圧力を制御する弁)を配置することも行われる。ポンプの下流側の圧力を一定に保つことにより、圧力変動による体積変化を無くすことが可能になるためである。
(b)のガスポンプシステムは、流量制御装置の上流と下流の圧力差によって流量を制御する方法であり、窒素にも二酸化炭素にも適用できる。微細射出発泡成形ではガスポンプシステムが採用されている。
超臨界流体注入装置からバレル内に注入された超臨界流体は専用のスクリューのフライトに掻き取られることで、小さな液滴になる。図7には微細射出発泡成形の装置における、超臨界流体注入口および専用スクリューの一部を示した3)。
溶融プラスチックは図中左側から図中65が示しているゾーンに流入する。ここで図中54から注入された超臨界流体は図中65のフライトにより掻き取られて小さな液滴として溶融プラスチック中に存在するようになる。超臨界流体の液滴を含む溶融プラスチックは、次の計量の際に図4中60で示すゾーンに進み、計量時のスクリュー回転によって溶融プラスチックと完全混合され、単一相溶解物を形成する。
計量されて射出を待っている単一相溶解物は飽和圧力以上の圧力を維持する必要が有り、そのためにシャットオフノズルと背圧維持機構が必要になる。言うまでも無く必要な圧力は飽和圧力以上であり、「臨界圧力以上」ではない。
7 微細射出発泡成形の利点
微細射出発泡成形プロセスの利点の多くは気泡の拡大が充填を助けることに由来する。意外なことに、気泡が小さいことによる利点を生かした用途はあまり知られていない。代表的な産業上の利点は、①軽量化、②薄肉化、③ソリ・ヒケ解消、④寸法精度向上、⑤型締力低減、⑥成形サイクル短縮等である。
7-1 軽量化
微細射出発泡成形ではプラスチックの中に気泡を生成させ、気泡を実質的に含まないソリッドスキン層(あるいは単にスキン層)と気泡を含むコア層から成るサンドイッチ構造をとっている。そのため、気泡が占める体積分だけ比重が下がる。
現実的な比重低下は8~15%程度であるが、ゲートからの流動長や金型内圧力に依存する。厚みに対する流動長(L/t)が長いほど密度低下の効果は小さくなる。また、金型内圧力が高いほど密度低下は小さくなる。すなわち流動長が長くなると、ゲート付近の金型内圧が高くなり気泡が収縮することで軽量化効果が小さくなる。
7-2 薄肉化
微細射出発泡成形では流動性が良いため、「充填するための肉厚」から解放される。製品厚みは、その製品の特性上必要な厚みにすれば良い。実際の製品では厚み0.3mmまで実績がある。
7-3 ソリ・ヒケ解消
通常の射出成形では金型内で固化収縮する分を保圧によって補う。しかしながら、この保圧工程が金型内の溶融プラスチックの圧力に分布を生じさせ、不均等な収縮を起こさせる。これがソリの原因となる。微細射出発泡成形では、プラスチックの固化収縮分を気泡の拡大で補うため、金型内の圧力が均等に掛り、ソリを抑制することができる。
通常の射出成形では、厚肉部分・ボス・リブ部分にヒケが生じる。ヒケは冷却が遅れる部分に生じる。この現象は、冷却が遅れる部分の周囲が先に固化することで保圧の圧力が伝わらず、遅れて起きる固化収縮を補うことができないために発生する。微細射出発泡成形では固化収縮を気泡の拡大で補うので、ヒケが起こらない。
7-4 寸法精度向上
微細射出発泡成形ではソリッド成形に較べて収縮率がやや大きくなるが、製品内での収縮は均等になる。通常のソリッド成形に較べると重量ばらつきはやや大きくなるが、寸法のばらつきは小さくなる。そのため、重量ではなく寸法で管理することを納入先との間で理解し合い、合意する必要がある。
7-5 型締力低減
微細射出発泡成形は基本的に低圧成形である。通常の射出成形は溶融プラスチックの圧力を高めて流し込むため、キャビティ内圧力が高くなる。MuCellプロセスでは気泡の拡大が充填を助けることと、キャビティの充填量が少なくなることによりキャビティ内圧力が低くなる。その結果、型締力は40~70%に下げることが可能になる。
7-6 成形サイクル短縮
MuCellプロセスでは保圧の代わりに気泡の拡大で固化収縮を補うため、成形機の条件設定上、保圧時間は実質的にゼロである。その分ソリッド成形よりも成形サイクルが短縮される可能性がある。
また、気泡が存在しないスキン層と発泡コア層のサンドイッチ構造になっているため、金型内において製品が持っている熱量の多くはスキン層に偏在しており、効率よく冷却されると考えられる。ただし、厚みが3mmを超えると内部まで冷却するために必要とされる冷却時間が長くなり、冷却が不十分であると後膨れが発生する。
8 利点を引き出す金型・製品設計
微細射出発泡成形に用いる金型は通常の射出成形用金型に比べて特別な注意が必要である。ゲート位置は肉厚が薄い場所に配置し、薄い方から厚い方に溶融プラスチックを流動させるようにする。これは、気泡の拡大によって流動が進むことを考えると理解しやすい。
ベントは通常の射出成形に比べて多め・大きめに配置する。微細射出発泡成形では発泡剤として用いられる窒素や二酸化炭素が流動末端から放出されるため、金型から排出すべきガス量が多いためである。
冷却は通常の射出成形以上に均一に行う。冷却不足によるホットスポットが生じると、型開き後に後膨れが生じることがある。入れ子やスライドも可能な限り冷却すると良い。
微細射出発泡成形の利点を十分に引き出すためには製品設計段階から考慮すべき点がある。その代表例を図8~図10に示した。
プラスチックの成形品では強度の要求ではなく、充填上の要求から過剰に肉厚を厚くしている場合があるが、微細射出発泡成形における流動性向上を利用して薄肉化する方法(図8)では、例えばソリッドの厚み2.5mmから発泡成形で厚み2.0mmにすることで、体積を20%削減するとともに発泡による比重低減を併せて約25%以上の軽量化が達成される。
微細射出発泡成形のメリットであるヒケが目立たないことを活かした軽量化の手法もある。図9の例では、天面を薄くしてリブを太くすることで軽量化しながら強度を維持することが可能になる。
コアバック法によって重さを変えずに製品厚みを増す方法もある。図10の例ではソリッドの2.5mmに対して1.8mmから2.9mmまで拡張(平板であれば発泡は1.6倍)した際に剛性を維持して28%軽量化できている。
9 微細射出発泡成形のトラブルシューティング
9-1 ブリスター
製品のごく表層に発生する膨れと、内部に発生する膨れがある。内部に発生するものは大きく、1cm位になることもある。いずれも膨れの内部は平滑であり、大きな気泡と考えてよい。
これは発泡剤である超臨界流体が分離している場合に起こりやすい。表面近くにできるブリスターは通常1mm以下の小さいものである。ゲート部での剪断が大きすぎる場合に起こりやすく、射出速度を落とすことが有効である。
9-2 後膨れ
図11に後膨れの写真を示す。製品を十分に冷却しないうちに取り出すと、板厚中央部や冷却が足りない部分で十分に固化していない場合があるが、このような部分が気泡内のガス圧で膨らみ、破泡が進行することがある。
ブリスターとの違いは切り出した内部がざらざらしている点である。ガス圧によって内部の気泡が破れ、引き裂かれ、外見的には膨れが起こる。発泡剤の量を減らし、冷却を十分行うことで解消できることが多い。本来は製品設計時、金型設計時に厚肉部を避けたり、ホットスポットが生じないような冷却配管の配置を検討しておくべきである。
9-3 スワールマーク
スワールとは渦巻きのことであるが、射出発泡成形において製品表面に生じる筋状あるいは渦巻き状の凹凸を伴った模様(図12)をスワールマークと呼ぶ。
これは流動末端で発生した気泡が破裂した後に成形品表面で引き伸ばされてできた痕であり、気泡が引き伸ばされている様子は図12の顕微鏡写真からよくわかる。原料のプラスチックが吸湿して発生するシルバーストリーク(銀条)とメカニズムは同じであるが、射出発泡成形の場合は気泡の数が圧倒的に多いために、成形品の表面全体に筋ができるのである。
スワールマークは後述する他の不良と異なり、外観部品以外では許容される。スワールマークを不良に分類するかどうかは用途によって異なるが、スワールマークが発泡製品の用途拡大を妨げていることには違いない。
スワールマークを解消する方法には、考え方として、気泡を発生させない、気泡を破裂させない、できたスワールマークを金型転写によって消す方法がある。
気泡を発生させない状態で充填完了させ、冷却固化の過程で気泡を発生させる方法であれば、スワールマークは生じない。この考え方は非常に少量の発泡剤で高速充填することで達成される。ただし、発泡剤が少ないことから、厚肉製品のヒケ防止等に限定され、高発泡倍率は期待できない。
発生した気泡を破裂させない方法としては、気泡内のガス圧力に対向して金型内の圧力を高める方法(ガスカウンタープレッシャー法)、溶融プラスチックの粘度を高めて流動末端での気泡拡大を抑える方法が用いられている。
ガスカウンタープレッシャー法は最後には金型キャビティ内に残るガスを排気しないとショートショットの原因になる。
溶融プラスチックの粘度を高める方法としては、高分子量成分と低分子量成分の組合せによって、高流動性と泡持ち性(流動末端における気泡を包み込む溶融プラスチックの粘度に関係する)を両立させている。
気泡を破裂させない方法としては発泡剤をプラスチック材料のカプセルで包む方法も実用化されている。すなわち、マイクロカプセル型の発泡剤の利用である。発泡剤のマイクロカプセルはペンタン等の炭化水素系発泡剤をポリアクリロニトリル等のガスバリア性に優れるプラスチックのカプセルでくるんだものである。環境温度が高まると、カプセルの軟化と内部の圧力上昇によってカプセルが膨らんで発泡体が得られるが、一定温度以下で成形すればカプセルが割れず、スワールマークが生じない。
スワールマークを金型転写によって消す方法としては、ヒート&クール技術との組合せが実用化されている。射出充填時の金型キャビティ内面温度がプラスチックの軟化温度よりも高い場合、流動末端で気泡が割れてスワールマークができても、キャビティ内圧力によって成形品表面が金型内面に押しつけられ、金型内面を転写することでスワールマークが消失する。
通常のヒート&クール成形と異なり、発泡成形では一般にキャビティ内圧力が低いため、低いキャビティ内圧力でも転写できる金型温度を選ぶ必要がある(図13)。より高いキャビティ内面温度を得るために、電気ヒーターや電磁誘導加熱方式による金型加熱方法が選択されていくと予想される4)。
ヒート&クール技術の代わりに金型キャビティ内面に熱伝導率が小さい層を設ける断熱金型も有効である。また、固化速度を制御して、冷却されても一定時間は流動性を保っているような材料も開発されており、ヒート&クールを併用しなくても外観に優れた成形品が得られている。
10 微細射出発泡成形専用の材料
ナイロン樹脂には発泡向け銘柄が存在する。これは、結晶化速度を遅くすることで、金型内のプラスチック材料の温度が下がった後も転写が進むことで、金型転写によってスワールマークを消失させることを狙った材料である。
発泡成形以外でも、このような結晶化速度が遅い特性は、ウェルドが見立たない、シボ転写が良い等のヒート&クール成形で得られる効果が特別な金型を使わなくても得られる。SolvayのTechnyl XCellが代表的であるが、近年は多くのナイロン樹脂メーカーが結晶化速度を遅くした銘柄を投入している。
このように結晶化速度を遅くした材料はナイロン系にとどまらない。日本ポリプロ㈱の出願の中に、メタロセン触媒を用いた特定のプロピレン-エチレン共重合体を用いるとウェルドが目立たず、微細形状の転写性に優れるという特長が記載されている5)。この材料は発泡成形でもスワールマークが出ないという特長を持つ。射出発泡成形に適した特性のポリプロピレンが本格的に市場投入されれば、発泡成形の用途は大きく拡大することが期待される。
11 微細射出発泡成形の用途
微細射出発泡成形は、自動車の内装部品やレーザープリンターの内部部品に多く用いられるようになってきた。図14に自動車用途における用途例を示した。
12 今後の可能性
近年微細射出発泡成形の技術開発は急速に進み、製品設計・金型設計・専用材料の技術開発と流動解析による事前予測が可能になってきている。自動車用途を中心にさらに用途が拡大していくと期待される。また、気泡が微細であることによる機能が発見されれば新規の用途展開も多いに期待できる。
参考文献
1)米国特許公報 4473665
2) 米国特許公報5866053
3) 米国特許公報6284801
4)秋元英郎,“ヒート&クール成形技術”,プラスチックスエージエンサイクロペディア進歩編2013,148-158 (2012)
5)特開2013-59896