発泡成形の基礎講座(9) 発泡成形のシミュレーションの現状
1 はじめに
発泡成形のシミュレーション(CAE)では、プラスチックの流動現象と気泡の発生・成長の両方を計算して表現する必要があり、流動解析ソフトには発泡成形用のオプション機能が設定されている。ここでは微細射出発泡成形(MuCell)のシミュレーションに対する取組み状況について例を挙げて紹介する。
微細射出発泡成形のシミュレーションでは、成形品の部分ごとにおける気泡密度および気泡径の予測が行われ、更には反りの予測も行われる。
2 従来の発泡シミュレーション
発泡成形のシミュレーションにおいて、気泡核の生成を計算するのは非常に計算負荷がかかるため、従来は一定の気泡密度で気泡核が生成すると仮定し、気泡密度を入力して計算させる方法が用いられてきた。
この考え方では、金型キャビティ内で圧力が高い部分と低い部分で気泡密度に差が出ない。実際の微細発泡成形では、物理発泡剤の飽和圧力以上では気泡核が生成しないため、圧力が高い部分では気泡核生成が遅れ、成形品内部では気泡密度に分布が生じる。
図1には、充填途中の気泡の様子(上段)と充填終了後の気泡の様子(下段)について、従来型のCAE解析と現実の微細射出発泡成形における気泡のイメージを示した。従来型のCAE解析では圧力が高い部分(ゲートに近い位置)と圧力が低い部分(ゲートから離れた位置)で気泡密度に差が無いとして解析していたため、現実の気泡の様子(右側)との違いがあった。
上記の課題を解決するために、CoreTech System社のMoldex3DはTaki1)の文献に記載された理論式を用いて気泡核の生成、気泡成長を計算して解析している。また、Auto Desk社のMoldflowでもトロント大学の知見をベースに気泡核の生成を計算するモードが選択可能になった。
3 気泡発生・成長を織り込んだCAE
微細射出発泡成形において、溶融プラスチックと発泡剤であるガス(窒素や二酸化炭素)が完全に溶け合い、単一相溶解物を形成し、溶解したガスの初期濃度(気泡が生成する前のガス濃度の状態)に分布が無い場合、気泡核が生成すると気泡は周囲の溶融プラスチック相からガスを取りこんで成長するとともに、周囲の溶融プラスチック相のガス濃度を減少させる。
そのため、最初に生成した気泡の成長速度が大きい(気泡内に向かってガスが流入する拡散速度が大きい)と、その気泡の近傍では新たな気泡核の生成は起こりにくくなる。
気泡核の数が多いと気泡1個に分配されるガス量が少なくなるため、気泡径は小さくなる。図2には気泡が多い場合と少ない場合の最終的な気泡径を示した。このように、成形プロセスにおいて、気泡が発生する数が多いか少ないかで最終的な気泡径に大きく影響されるため、気泡核の生成を正確に予測することは極めて重要である。
4 Moldex3Dで用いられている理論式
気泡核生成モデルは式1で表される1)。ここで、気泡核生成率J(t)がJthresholdより大きくなった時に核生成が始まるように設定される。
(式1)
ここで、f0 とFは、セルの核生成率の固定パラメータと定義する。
平均ガス濃度は式2で表す。ここでは、溶融プラスチック中のどこでも気泡核が発生し、ガスの平均濃度にのみ依存することが仮定されている。
(式2)
気泡の成長は、気泡周囲の溶融プラスチックに溶けているガスが気泡に向かって物質移動する。ここで、ガス拡散式は式3、気泡半径の時間変化の式は式4で示される。
(式3)
D:溶融プラスチック相内のガス拡散係数
c:ガス濃度
r:気泡中心からの距離(式4)
R:気泡径
η:溶融プラスチック相の粘度
PD:気泡内のガス圧力
PC:気泡周辺の圧力
γ:界面張力
5 解析例
5-1 気泡径解析の例
ガラス繊維30%のポリアミド6に物理発泡剤として窒素を0.2%添加して発泡成形した板形状(厚み3mm)の成形品断面のSEM写真を図3に示す。同じ成形品をX線CTで撮影し、画像処理によって気泡の状態を測定した結果を図4に、Moldex3Dによる解析結果を図5に示す。図4と図5のグラフ形状は良く一致している。
5-2 反り解析の例
フィラー無添加のポリプロピレンに物理発泡剤として窒素を0.5%添加して発泡成形した箱型形状の成形品と比較対象としてのソリッド成形品について断面形状のX線CT測定結果(図6)とMoldex3Dで解析した断面形状の結果(図7)を示す。
実測結果ではソリッドと微細射出発泡成形(MuCell)それぞれの反り量は2.24mm、0.88mmであり、解析結果は2.9mmと1.2mmとなった。このように非常に良く微細射出発泡成形の反り低減効果を予測出来ている。
製品内部の気泡の様子についても図8にX線CTの結果と解析の結果を比較して示した。断面観察による気泡の分布と解析による結果が非常に良く一致していることが理解できる。
5-3 コアバックの解析
コアバック法は、樹脂を充填した後に金型の可動側あるいは金型のスライドコアを移動させ、金型キャビティの容積を拡大させて高倍率の発泡体を得る手法であるため、成形の過程においてキャビティ形状が変化する。Moldex3Dではキャビティ拡大に相当する領域に対応するメッシュを加えることでコアバックに対応している(図9)。
Moldex3Dによるコアバック発泡の解析例を示す3)。CoreTech Systemsが京都大学と共同で行った研究である。図10は解析と成形試験に用いた成形品の形状である。金型キャビティの厚みは2㎜から10㎜まで変化させることが可能であり、初期厚み2㎜から4㎜,6㎜,10㎜まで拡張(コアバック量はそれぞれ2㎜,4㎜,10㎜)した。
成形に用いた材料はホモPPで樹脂温度210℃、金型温度40℃、N2ガス濃度0.2wt%、保圧を40MPa で6秒後、コアバック速度を20mm/secでコアバックして、実験とCAE解析での気泡径及び密度分布の比較を行った。結果を表1に示す。気泡密度,気泡径ともに近い値が得られた。
表1 コアバック距離と気泡径。気泡密度の関係の実験と解析の比較3)
なお、この例は保圧時間が非常に長く、板厚中心部の温度が十分下がっている状態と考えられる。中心部の温度が高い状態からコアバックした場合に板厚中心部の気泡が裂ける現象の解析が今後の課題として残されている。
6 今後の課題
微細射出発泡成形のCAE解析精度を高めるには、次に挙げるような課題がある。例えば①発泡核剤効果を持つ添加剤を含む材料の解析、②結晶化速度を考慮した気泡成長停止の解析、③より小さい気泡を観察できるX線CT測定技術と画像処理技術の確立、④金型キャビティ内圧力による気泡消失と気泡の再発生の解析等である。また、解析に必要な樹脂物性のデータとともに窒素や二酸化炭素の溶解度データ、拡散係数のデータ等の整備が必要になる。
参考文献
1)K.Taki , Chemical Engineer Science, 63pp. 3643-3653 (2008)
2)CoreTech Systems HP(http://support.moldex3d.com/r14/moldex3d/module-introduction/q-and-a/mesh-tips/solid-tips/how-to-set-mesh-morphing-fixed-boundary-condition/)
3)L.Y.Chang,at al,FOAMS 2015 Conference (2015)