発泡成形の基礎講座(10) 発泡用材料の技術動向
1 はじめに
発泡成形においては気泡の生成・成長を制御することが重要である。そのために発泡成形に適した材料設計が行われている。ここでは発泡成形用に設計された材料の技術動向について紹介する。
2 ビーズ発泡用材料
ビーズ発泡には一般的にはポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが用いられ、柔軟高反発用途ではTPUも用いられている。
積水化成品工業はポリスチレンとポリオレフィンの複合化したビーズ発泡体(ピオセラン)を開発した。ビーズの段階でポリスチレンとポリオレフィンが複合化されており、成形はEPSのプロセスがそのまま適用できる。ポリスチレンの高剛性・高発泡性とポリオレフィンの耐衝撃性・耐薬品性を兼ね備えた特長を有している。
3 押出発泡用材料
3-1 押出発泡用ポリプロピレン
押出発泡に適するポリプロピレンの開発は2000年前後に盛んに行われていた。発泡シートの押出時における気泡の合一を抑制するには歪み硬化性の付与が不可欠であり、各社各様のアプローチが行われた。
グランドポリマーの出願1)によれば、極限粘度[η]が8~13 dl/gの高分子量ポリプロピレンを15~50重量%含み、分子量分布が広い(分子量分布Mw/Mnが6 ~20、かつMz/Mwが3.5以上)ものが良好な押出発泡シートを与えると記されている。
チッソの出願2)によれば、超高分子量ポリエチレンがポリプロピレン中に微分散したものを用いると微細な気泡で高倍率のポリプロピレン発泡シートが得られると記されている。超高分子量ポリエチレンを微粒子状に重合した後に引続きプロピレンの重合が行われることで得られ、超高分子量ポリエチレンを後から添加しても発泡特性は得られない。
その他にも放射線や過酸化物によってポリプロピレンを架橋して歪み硬化性を発揮させた銘柄が多く市場に投入されたが、材料としての熱安定性や架橋時におけるゲルの生成等の問題もあった。
上記の材料はいずれも高分子量成分あるいは分岐構造による分子鎖の絡み合い効果によって歪み硬化性を発現させている。しかしながら、ポリプロピレンメーカーの経営統合や製造プラントのスクラップ・アンド・ビルドによる大型化によって、特殊銘柄である発泡用ポリプロピレンは廃番になっていった。
その中で、近年日本ポリプロ㈱によって新たな発泡用ポリプロピレンが開発され、WAYMAXとして市場投入された3)。
同社はメタロセン触媒技術を用いてプロピレンを重合して末端に重合性の二重結合を残したマクロマーを生成する触媒成分、マクロマーとプロピレンを立体規則性良く共重合する触媒成分を同一担体上に担持させた専用の触媒により長鎖分岐を数多く持った分岐ポリプロピレンの重合による、発泡用ポリプロピレン銘柄の製造技術を確立した4、5,6、7)。
表1にWAYMAXの物性表、図1にメルトフローレートと溶融張力の関係を示した(いずれも日本ポリプロ㈱WAYMAX紹介パンフレットより引用)。
表1 高溶融張力PPWAYMAXの物性表(日本ポリプロ㈱技術資料より)
3-2 押出発泡用ポリスチレン
ポリスチレンは押出発泡にも多く用いられる材料である。特に発泡特性を高めた発泡専用銘柄も開発されている。1分子中にビニル基を2個持つビニルモノマーを用いることで、高分岐型超高分子量体を含むスチレン系樹脂組成物が得られる8)。 表2は東洋スチレンのGPPSから発泡銘柄を抜きだしたものである。
表2 東洋スチレンの発泡用銘柄(東洋スチレンのHPから引用)
3-3 押出発泡用AES樹脂
アクリロニトリル・エチレンプロピレン・スチレン共重合体(AES樹脂)は非常に微細な気泡を持った発泡シートを与える9)。参考文献9の特許公報では、実施例としてメルトフローレートが4.0のAESが用いられている(日本エイアンドエル株式会社のユニブライトUB-860が用いられている。
4 射出発泡成形用材料
4-1 射出発泡成形用ポリプロピレン
日本ポリプロ㈱による出願10)によれば、メルトフローレートが150g/10min以上の高流動のホモポリプロピレンと極限粘度[η]が5.3~10 dl/gのエチレン・プロピレン共重合体ゴムから成る耐衝撃性ポリプロピレンは表面外観(シルバーストリークの状態)、面張り、発泡倍率、気泡形態が良くなると記されている。高分子量のゴム成分により高粘度化して気泡の破裂や合一を抑制しているものと考えられる。
同社は、前述の押出発泡用ポリプロピレンをベースにした材料を射出発泡用途に展開し始めている。日本ポリプロ㈱による別の出願11)によると、メタロセン触媒を用いた特定のプロピレン-エチレン共重合体を用いるとウェルドラインが目立たず、微細形状の転写性に優れるという特長が記載されている。
これは結晶化速度を遅くしているためであり、射出発泡成形においてしばしば問題となるスワールマークを目立たせなくする効果も併せ持つと期待される。
上記効果に加えて、結晶化速度が遅いことは、特にコアバック発泡において適当なコアバック遅延時間を確保することで板厚中心部の粘度と金型内壁に近い部分の粘度差を小さくすることができるため、気泡径分布が小さく発泡倍率が大きい発泡体が得られることが期待される。
4-2 ポリプロピレン用添加剤
住友化学による出願12)によれば、ポリプロピレンにソルビトール系化合物を少量添加することで平均気泡径が小さく、気泡径分布が狭くなることが記されている。
ソルビトール系化合物はポリプロピレンの結晶を微細化させて透明性を高めるために用いられることが多く、透明核剤として知られている。このような透明核剤による微細な結晶の発生・成長は気泡の拡大・合一を抑制する効果を持つものと考えられる。
ソルビトール系化合物はコアバック発泡にも特異的な効果を持っている。すなわち、ソルビトール化合物を添加したポリプロピレンを高倍率にコアバック発泡すると、コアバック方向に引き伸ばされて、気泡壁が裂けて連続気泡化して繊維状になることが京都大学によって報告されている13)。
その一方でソルビトール化合物は溶融ポリプロピレン中でゲル化してネットワーク構造を形成することも知られており、気泡微細化の効果が微細な結晶によるものなのかネットワーク構造による低せん断域における粘度上昇によるものなのか、今後の研究によってはっきりしてくるであろう。
京都市産業技術研究所の研究によると、セルロースナノファイバーに表面処理を行ってポリプロピレンにブレンドすると低せん断域における粘度が上昇し、セルロースナノファイバーの添加が無いものに比べてバッチ発泡試験による気泡径が小さくなることが報告されている14)。
カネカによる出願15)によれば、溶融張力が小さいポリプロピレン(メルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下、メルトテンションが2cN以下である線状ポリプロピレン系樹脂)と溶融張力が大きい(メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満、メルトテンションが5cN以上で、かつ歪硬化性を示す)改質ポリプロピレンのブレンドが有効であると記されている。
ここで改質ポリプロピレンの製造法としてはホモポリプロピレンを過酸化物存在下でイソプレンによる架橋を行っている。高流動性と泡持ち性を両立させることで、コアバック法による高倍率を可能にしていると考えられる。
ポリプロピレンの結晶化を遅延させる添加剤としては黒色色材であるニグロシンが有効である16) 。ニグロシンの効果は結晶核発生数の抑制、結晶化温度の低下、結晶化速度の低下が知られており、特にポリアミドに対する結晶化遅延効果が詳細に報告されている17)。
4-3 射出発泡成形用ポリアミド
射出発泡成形に向いたポリアミド樹脂として最初に登場したのはRhodia(現在Solvayグループ)のTechnylXcellである。
この材料は元々TechnylStarと呼ばれる星型構造の分岐ポリアミドで、結晶化速度が遅いという特徴を持ち、射出成形でシボや鏡面転写性に優れるという特長を持っていた。これを微細射出発泡成形用銘柄として転用されたものである。星型ポリアミドの製法に関しては参考文献18に記述がある18)。
東洋紡㈱はコアバック発泡で高倍率、均一な発泡構造、優れた表面外観を得る目的で、結晶化特性に注目して材料開発を行った19)。参考文献19によると結晶性ポリアミドとして昇温速度20℃/分における融点と降温速度20℃/分における結晶化温度の差が37℃以上のポリアミドを選ぶと良いことが開示されている。
また、黒色顔料としては結晶化促進効果を持たない特殊なカーボンを使用することが開示されている。
ユニチカ㈱は発泡用ナイロンとしてフォーミロンを上市している。この材料の特徴は、せん断粘度のせん断速度依存性が大きい(低せん断域でより高粘度になる)ことと、伸長粘度が大きいことにある(図2)。
図2に示すようにせん断粘度のレベルを比べると通常のポリアミド6と射出発泡用ポリアミド6(A3205SF)の粘度レベルは同レベルであるが、射出発泡用の方がせん断速度に対する粘度の傾きが大きく、伸長粘度を比べると射出発泡用の方が1桁以上大きい値になっている。この伸長粘度特性が気泡の合一を抑制し、流動末端での気泡の破裂によるスワールマークも抑制する。
ポリアミド樹脂にセルロースナノファイバーを添加すると発泡特性が向上することも知られている。京都市産業技術研究所を中心としたチームでは疎水化変性したパルプをポリアミド6と溶融混合(混合時に解繊が起こる)したコンポジットの動的粘弾性測定において低せん断域でセルロースナノファイバーの添加量が多いほど貯蔵弾性率が高くなることを示している(図3)20)。ここで、比較としてミネラル添加も示しているが、ミネラルの場合は粘度特性には大きな変化は無い。
図4にポリアミド6のコアバック発泡におけるセルロースナノファイバーの添加効果を示す。ミネラル添加でも無添加のポリアミド6に比べると気泡径は小さくなるが、セルロースナノファイバー添加径では気泡径が一段と小さくなっている。セルロースナノファイバーはポリアミド中で互いに絡み合ってネットワーク構造を形成することで、気泡壁が破れて気泡合一が起こることを抑制していると考えられる。
参考文献
1) 特許公報 再表99/007752
2) 特許公報 再表97/020869
3) 日本ポリプロ株式会社 プレスリリース (2015年4月10日)
4) 特開2009-40959
5) 特開2009-57542
6) 特開2009-108247
7) 特開2014-181314
8) 特開2013-100427
9) 特開2012-72415
10) 特開2010-150509
11) 特開2013-59896
12) 特開2004-269769
13) 宮本嗣久; 小林めぐみ; 金子満晴;大嶋正裕,マツダ技報,33,130-134 (2016)
14) 伊藤彰浩;仙波健;北川和男;矢野浩之;奥村博昭,京都市産業技術研究所研究報告,3,8-13(2013)
15) 特開2010-106093
16) 特開2007-274274
17) オリエント化学工業株式会社 ホームページ
(http://www.orientblack.com/jushi/jushi_NIGROSINE1.html)
18) 特表2007-505772
19) 再表2014/185371
20) 伊藤彰浩;仙波健;田熊那郎;俵正崇;西岡聡史;大嶋正裕;矢野浩之,京都市産業技術研究所研究報告,6,1-6 (2016)