発泡成形の基礎講座(8) 気泡の生成と成長
1 発泡成形における気泡の挙動
発泡成形は、プラスチックのマトリックスと発泡剤の系から気泡が発生し、その気泡が成長するプロセス、気泡の壁が破れて合一するプロセス、気泡壁が固化して気泡の成長が停止するプロセスからなる。
また、一度生成した気泡が圧力によって消失するプロセスも存在する。図1に気泡核生成、気泡の成長、気泡の合一及び気泡の消失の流れを示した。
2 気泡の発生
溶融したプラスチックには圧力をかけて物理発泡剤(窒素や二酸化炭素)を溶解させることができる。物理発泡剤の溶解度は温度や圧力に依存し、一般に低温、高圧ほど溶解度が高くなる。ここでは圧力を変化させて気泡を発生させるケースについて論じる1,2,3)。
2-1 過飽和状態
溶融プラスチックに物理発泡剤が溶解している状態で、飽和圧力以上の圧力が維持されていれば相分離せずに単一相が維持される。ここで圧力を飽和圧力以下に下げると過飽和状態になり、溶けきれない発泡剤が気泡として分離する。
物理発泡剤である窒素や二酸化炭素の溶解量はヘンリーの法則に従い、溶解度は圧力に比例する。そこで、式1、式2のように表現される。
c=Peq・kH (式1)
Peq=c/kH (式2)
ここでPeqは平衡状態にある飽和圧力、kHはヘンリー定数、cは溶解度(重量分率)を表す。飽和状態から圧力Pまで下げると、過飽和状態になる。ここで過飽和分の圧力をPssとすると、式3となる。
Pss=Peq-P (式3)
飽和状態から過飽和状態を生み出して気泡を発生させる方法には2通りあり、温度を上げて溶解度を下げる方法、圧力を下げて溶解度を下げる方法がある。また、その両方を同時に行うことも可能である。
図2は飽和と過飽和及び気泡の様子を表したものである。状態Ⅰでは圧力PAであり、図中では発泡剤の分子が8個溶けている。状態Ⅱは圧力をPBにした状態で、図中の発泡剤の分子は16個溶けている。状態Ⅲは状態Ⅱから圧力をPAに下げた状態であり、図中の発泡剤分子は16個溶けているが、その内の8個は過飽和に相当する。
したがって、過飽和圧力(PB-PA)は色を分けて示した分子8個を溶かすための圧力である。状態Ⅳは過飽和分の分子がポリマー相から分離して気泡を形成している様子を示し、ポリマー相には圧力PAに対応する分子数(8個)だけが溶解して飽和状態になっている。
2-2 気泡核生成のドライビングフォース
気泡核生成のドライビングフォースのひとつは前述の過飽和圧力である。過剰に溶解している発泡剤の分子は過飽和圧力によってポリマー相から絞り出されようとする。
その一方で、ポリマー相に気泡が生じる場合、新しく界面が生じる。界面科学的には新たな界面形成は不安定な方向に向かうため、過飽和によるドライビングフォースをキャンセルする方向に働く。
そのため、過飽和になってすぐに気泡核が生成するのではなく、過飽和圧力がある程度になってはじめて気泡核が生成しはじめる。
式の誘導は省略するが、核生成速度Jは式4で表される。
J=N(2σ/(πm))1/2 exp[-16πσ3/3kT(Peq-P)] (式4)
ここでσは界面張力、Nは単位体積当たりの発泡剤の分子数、mは発泡剤の分子量、kはボルツマン係数、Peqは飽和していたときの圧力(すなわち、溶解している発泡剤量に相当する圧力)、Pはポリマー相にかかる圧力である。
式4には発泡剤の分子量と界面張力の値が入っているだけで、発泡剤およびポリマー相の化学的な特性を表現するパラメーターは入っておらず、現実の系に合わせるためには補正が必要になる。
生成したての気泡核は非常に小さく、成長できずに死滅するものもある。その割合を補正するパラメーターがf0である。また、核生成のための自由エネルギー障壁を補正するパラメーターがFである。それらを織り込むと、式5になる。
J=f0N(2σ/(πm))1/2 exp[-16πσ3F/3kT(Peq-P)] (式5)
式5において、Peqは溶解させた発泡剤の量に比例する。したがって、気泡核生成速度Jの対数が発泡剤添加量に比例し、発泡剤を多く添加するほど加速度的に気泡数が増えることを示している。また、温度が高いほど発泡剤添加量の依存性は大きくなる(図3)。
3 気泡の成長
気泡の成長にも2つのドライビングフォースがある。ひとつは気泡内の発泡剤量の増加であり、ひとつは圧力変化による体積膨張である。
まず、気泡内の発泡剤量の増加について述べる。図2において、ⅢからⅣへは瞬時に移行するわけではなく、小さい気泡が生じた後に気泡内に発泡剤の分子が移動して気泡内の発泡剤量が増加する。
気泡内の圧力は外部から与えられている圧力(図2の場合はPA)に等しく、最終的に過飽和圧力がゼロになるまで気泡内での物質移動は続く。
ポリマー相から見ると気泡に発泡剤を吸い取られていき、そこには濃度勾配が生じる。図4には気泡の外部ポリマー相における発泡剤の濃度勾配を示した。RBは気泡の半径、RFは気泡の影響を受けて発泡剤の濃度に勾配がある領域の半径である。
ポリマー相から気泡内に移動する発泡剤の分子数は気泡の表面積、ポリマー相における発泡剤の濃度勾配、ポリマー相中における発泡剤分子の移動速度(すなわち拡散係数)の積である。気泡内の圧力はポリマー相の外部の圧力に等しいと考えられるため、気泡内に移動した分子数に応じて気泡径は大きくなる。
ポリマー相に残存する発泡剤分子はすでに生成した気泡同士で奪い合うと同時に、新規に生成する気泡核にも提供される。拡散速度が大きい場合には初期に生成した気泡がそのまま成長して気泡径は比較的そろうが、拡散速度が遅い場合には初期に生成した気泡が成長する間に次の気泡核が生成するため、気泡径分布が広くなる。
図5に気泡核生成速度と拡散速度の違いによる気泡成長の様子を模式図で示した。射出発泡成形で発泡剤として窒素を用いる場合にはケースaのように微細な気泡が多く生成し、二酸化炭素を用いる場合には気泡数が少なく気泡径は大きいが気泡径分布が狭くなる。
気泡の成長の2つ目の要素は圧力変化である。図2では外部の圧力をⅡのPBからⅢのPAに変化させた後はPAを維持することを想定して説明したが、PAからさらに下がっていく場合は複雑である。外部の圧力が下がると気泡内の分子数が変わらなくても体積は増大する。気泡が拡大して気泡内の圧力が下がると、さらにポリマーマトリックスから発泡剤分子が気泡内に移動する。
4 気泡の合一・破裂
一定の体積を占めるポリマー相から多数の気泡が発生してそれぞれの気泡が成長していくと、気泡間の距離が縮まる。気泡数が変わらないとき、気泡1個当たりのポリマーの量は一定であるが、気泡の表面積は増大していくので気泡壁の厚みは減少していく。
図6に気泡の成長に伴う気泡の衝突の様子を示した。最初は球であった気泡が最終的には多面体構造に向かっていく。
気泡が占める体積が同じであれば、気泡数が多く気泡径が小さいほど気泡壁の厚みは薄くなる。ここで、気泡数が同じで気泡径が大きくなるとき気泡壁の厚みがどの程度変化するかを簡単に評価してみる。トレクセル社が提唱しているマイクロセルラー(微細発泡体)の定義は平均気泡径が100μm以下、気泡密度は108個/cm3であるから、この数値をベースに計算する。
1cm3すなわち103mm3のポリマー相から108個の気泡ができたとする。簡略化のため、気泡を立方体として計算する。気泡が1辺10μm(10-2mm)の立方体であるとすると、108個の気泡の体積の合計は102mm3であるから体積ではわずかに9%しか占めない。
このとき気泡の表面積の合計は6×104mm2となり、ポリマーの体積を気泡の表面積で割ると厚みは1.6x10-2mmとなる。実際には隣接する気泡に同じ厚みずつあるので、気泡壁の厚みは32x10-2mmとなる。
同じ計算を気泡が1辺2×10-2mmとして計算すると表面積が4倍になり気泡壁は1/4の8x10-2mmとなる(図7)。なお、気泡が占める体積は8倍の8x102㎜3であるから、気泡は全体積の44%を占める。
このように気泡の径が膨らむときに気泡壁は二次元方向に引き伸ばされて薄くなっていく。このとき、気泡が破れるかどうかはポリマー相の特性に大きく依存する。ポリマー相が引き伸ばされたときにポリマーの分子鎖が絡み合って擬似的に網目構造を形成すると容易には破れない。
とくに変形する速度が分子鎖の絡み合いより速い場合にはその特徴が強く現れる。この特性は伸長粘度を測定すると歪み硬化性として現れる。
したがって、微細な気泡からなる発泡体を得たい場合、歪み硬化性を持つ材料を用いて破泡を抑制することが重要である。図8には参考文献4の図1から引用したもので、伸長粘度を測定した際に(1)に示すように歪みを大きくしていくとある歪み位置から伸長粘度が急上昇する挙動が歪み硬化性である。
5 気泡成長の停止
気泡の合一や破裂が起こらない場合でも、気泡の成長は無限に続く訳ではなくあるところで停止する。要因としては大きく分けて2つある。ひとつは、射出成形において気泡を含有したポリマーが金型キャビティを満たした場合、もう一つは気泡を取り囲むポリマー壁が固化して弾性率が上昇した場合である。
プラスチックの発泡成形においては冷却固化と気泡の拡大が競争になり、気泡径、発泡倍率および気泡を含まないソリッドスキン層の厚み等に影響する。材料側から見ると、結晶化速度の調整によって同じ冷却速度であっても得られる気泡構造を制御することが可能になる。
6 気泡の消失
前述のように、ポリマーに発泡剤が溶解している状態から圧力を下げていき、飽和圧力よりも下がると過飽和状態になり、やがて気泡核が生成し、気泡が成長する。
ポリマー相に気泡が存在する状態で系の圧力を再び上昇させると気泡は縮小する。系の圧力を飽和圧力よりも高くすると、気泡内部の発泡剤はポリマー相に吸収されて、気泡は消失する。その様子を図9に示した。
図10は山田らが超臨界窒素を発泡剤として用い、HIPSを射出発泡成形した際に射出充填ピーク圧力を5MPaとした場合と、30 MPaとした場合での気泡径、気泡密度を比較した結果である。
明らかに充填ピーク圧力が低い方において気泡径が小さく気泡密度が高い。射出充填ピーク圧力が5 MPaの場合、射出成形機のノズルを出て減圧されて発生した気泡がそのまま残るが、30 MPaまで上げた場合には金型キャビティ内で気泡が一度消失し、冷却固化による緩やかな減圧によって再度気泡が発生したものと考えられる。射出発泡成形においては、製品設計やランナー設計において気泡の消失を考慮する必要がある。
参考文献
1) 木原;孫;滝嶌,“プラスチック発泡技術の最新動向”,シーエムシー出版,22-61 (2015)
2) K.Taki, Chem. Eng. Sci., 63, 3643-3653 (2008)
3) S.T.Lee; C.B.Park; N.S.Ramesh, “Polymeric Foams”, CRC Press, 41-72 (2007)
4)特開2015-196711
5) 山田, 小熊, 村田, 横井,埼玉県産業技術総合センター研究報告,7,(2009)