発泡成形の基礎講座(11) 発泡製品の用途
1 はじめに
発泡製品の具体的な用途を産業分野毎に分けて紹介する。発泡成形の技術開発が進むにつれて、新しい用途も拡大している。
2 自動車部品
自動車には重量ベースで10%を超える非常に多くのプラスチックが使用されている。各自動車メーカーでは更なる自動車軽量化のために軽いプラスチックを更に軽くする努力が進められている。
軽量化目的の部品以外にもソフトタッチ、吸音、断熱を目的としたものもある。自動車に使われる発泡成形品には射出発泡成形品、押出発泡成形品、発泡ブロー成形品や発泡シート(および発泡層を含んだ複合シート)の真空成形品、ビーズ発泡成形品等がある。
2-1 内装部品
2-1-1 インスツルメントパネル
一般的にソフトタイプのインスツルメントパネル(インパネ)は、硬質樹脂製のコア材と軟質樹脂シート製の表皮材および両者の間に注入される発泡ウレタンから構成されているが、。近年は硬質のインパネコア用途に射出発泡(特に微細射出発泡)成形が用いられるようになってきた。
図1には微細射出発泡成形によるインパネコアの写真を示した。発泡成形によって1台あたり約500gの軽量化を実現した他、型締力45%低減、サイクルタイム15%低減のメリットが得られている1)。
一方で、注入発泡ウレタンによるクッション層を射出発泡成形に置きかえる試みもある。2013年にデュッセルドルフ(ドイツ)で開催されたK2013ではTrexel Inc.ブースに二色成形とコアバック発泡技術を活用したソフトタイプのインパネが展示された(図2)。
これはEngelが開発したDolphin技術が用いられている。Dolphin技術とは、対向二色成形機の可動プラテンにMuCell技術の第2射出ユニット(超臨界流体を溶解して射出)を取付け、第1射出ユニットから射出されたコア材(硬質)の上に第2射出ユニットから射出された発泡性エラストマーを重ね、コアバックして発泡倍率を増す。エラストマーの部分は気泡が存在しないソリッドスキン層(表皮材に相当)と高倍率の発泡層(クッション層に相当)がひとつの成形動作で積層される。
2-1-2 ドアトリム
近年、ドアトリムは表皮を積層しない射出成形によるものが多いが、射出発泡成形とコアバックを組合わせて高発泡倍率化して軽量化を図る例が増えてきている。図3には展示会の河西工業㈱ブースで出展された表皮無しの発泡PP製ドアトリム(キャビントリム)の写真を示した。表面のスワールマークによる不良を避けるために金型内を加圧して行うカウンタープレッシャー法が併用されている2)。
カウンタープレッシャー法とコアバック法の組合せによる軽量化と外観品質維持の取組みについては、積水テクノ成型も展示会でサンプル展示を行っている(図4)。
図5は河西工業㈱のホームページに掲載されている、押出発泡によるPPシートを真空成形して表皮材を積層した非常に軽いドアトリムの例である2)。
図6には住友化学㈱と住化プラステック㈱による発泡シートの熱プレス成形による賦形と小型射出ユニットからクリップ座等の射出を行って一体化するプロセスが示されている3)。
高級車のドアトリムの表皮材にはクッション層として架橋PPの押出発泡シートが用いられることがある。図7には展示会で積水化学工業㈱が展示していた発泡シート複合表皮材を用いたドアトリムの写真を示す。ウレタン注入に比べて簡単でドライな工程で製造されるソフトタイプのドアトリムである。
2-1-3 サンバイザー
サンバイザーの製法にはいくつかあるが、代表的な工法はビーズ発泡ポリプロピレンを用いる方法である4)。図8に東名化成㈱のホームページに掲載されているサンバイザーの写真を示す。
2-1-4 センタークラスター周辺部品
図9はカーエアコンのコントロールパネルであり、フィルムインサート成形と微細射出発泡成形(MuCell)の組合せ技術による製品である。フィルムインサート成形品におけるヒケの目立ちと発泡成形におけるスワールマークの目立ちの両方が解決できる組合せである5)。
2-2 外装部品
図10は微細射出発泡成形(MuCell)で成形されたサンルーフフレームの写真である。部品点数の削減、ソリの低減を実現している6)。ウェザーストリップにおいても軽量化のために発泡成形が採用されている7)。
日産セレナのサイドシルプロテクターや、スバルのSUBARU VXのサイドガーニッシュ(どちらも自動車のボディーの保護と意匠性向上のために付けてある部品)には射出発泡成形品が採用されている(図11)。
詳しい製法は公表されていないが、コアバック法を用いていると考えられ、同じ剛性のソリッド品に比べて約30%の軽量化を実現するとともに、外観品質(光沢、色等の状態および耐候性)も十分な水準にある8)。
2-3 エンジンルーム部品
2-3-1 HVAC
カーエアコンの冷風および温風の風量調整・切替のためのユニットがHVACと呼ばれる部品である。形状が複雑で重量もあり、断熱特性の期待もあるため、発泡成形が検討され、いくつかの車種に搭載された実績がある。
2-3-2 エンジンカバー
一部の自動車メーカーでは、高燃費エンジンのエンジンカバーにポリアミド樹脂製の発泡エンジンカバーを採用している。このエンジンカバーは化学発泡あるいは微細射出発泡成形(MuCell)とコアバックの組合せにより成形されている。
図12は展示会で東洋紡㈱が展示しているマツダのスカイアクティブエンジン用のエンジンカバー(成形はダイキョーニシカワ㈱)である。
エンジンカバーの吸音・遮音素材としても発泡製品が使用されている。例えばフォルクスワーゲンのエンジンカバーの遮音材にメラミン発泡体が採用されている。
2-3-3 ファンシュラウド
図13には微細射出発泡成形(MuCell)で成形されたファンシュラウドの写真を示した。部品点数の削減(一体化)、軽量化、耐疲労特性の向上、工程管理指数の向上等のメリットが得られている8)。
2-4 機能部品
2-4-1 衝撃吸収パッド
樹脂製バンパーの裏側に設置して衝突時の衝撃を吸収する部品(衝撃吸収パッド)はバンパーファエシア(バンパー表面部品)の裏側に合わせた形状にビーズ発泡ポリプロピレンで成形される9)。図14に写真を示した。
ドアトリムの裏に装着される衝撃吸収パッドは発泡ウレタン製のものが多い10)。図15に発泡ウレタン製の衝撃吸収パッドの写真を示した。
2-4-2 エアダクト
自動車用空調ダクトの軽量化と断熱特性を目的として発泡ブロー成形による製品が開発されている。断熱性が向上することで、断熱用に発泡ウレタンを貼る必要が無くなり、部品点数が削減されている11)。図16にはブロー成形によって成形されたエアダクト(キョーラク)の写真を示した。
発泡エアダクトは発泡ブロー成形以外にも射出発泡成形品や押出発泡シートを真空成形した成形品を2枚合わせる方法もある(図17)。
2-4-3 ドアキャリア
ドアモジュールに用いるドアキャリアはガラス長繊維強化ポリプロピレンを微細射出発泡成形(MuCell)によって成形される。この部品にスピーカーやウィンドウ開閉のための電動ユニットを取り付ける12、13)。図18にドアキャリアの写真を示した。
3 食品容器・包材
食品容器・包材では、断熱性、密閉性、光遮断性や軽量性を活かして発泡製品が使用されている。
3-1 カップ・トレー
ホット飲料のカップ、フードコート等の麺類用使い捨て丼、インスタントカップ麺の容器、スーパーマーケットの食品売り場で用いられるトレー、納豆の容器等は押出発泡成形によって製造されたポリスチレンの発泡シート(PSP)を真空成形によって賦形されて製造される14)。図19には納豆容器のスケッチ、図20にはカップ麺容器の断面図を示した。
3-2 キャップシール
飲料や化粧品の容器の蓋の内部には内容物が漏れないようにするためのパッキンが装着されている15)。最も多く用いられているのは低密度ポリエチレンの発泡体(例えば三井化学東セロ㈱のハイシート)である。低密度ポリエチレン発泡体は衛生的かつ、低臭で内容物への影響が少なく、適度なクッション性により優れた密封性を備えている。
近年では輸入ワインの栓がコルクに代わって発泡成形品が使用されるようになってきている。密閉性に優れ、開栓時にコルクが崩れることが無いという利点がある。
3-3 飲料ボトル
PETボトルは透明で内容物が見えるが、その半面光線によって内容物が劣化する可能性がある。遮光のためにPET以外の材質と複合化すると、リサイクル性が著しく低下する。そこで、微細発泡させたプリフォームを延伸ブロー成形することで、延伸されて扁平形状になった気泡が光を反射して遮光できる不透明なPETボトルが登場した。
東洋製罐㈱は窒素ガスを溶解させ、かつ気泡を発生させない条件でプリフォームを成形し、延伸ブロー工程における予熱時に気泡を発生させる方法を採用している。図21は東洋製罐㈱の方式によるボトルの断面図である。
一方で、プリフォームを微細発泡で射出成形し、発泡したプリフォームを延伸ブロー成形する方法もある。図22において右が微細射出発泡成形によるプリフォームで、左が延伸ブロー成形による遮光ボトルである。
4 輸送・梱包
物流分野では発泡製品は非常に多く使われている。軽量で剛性が高い容器が得られることと衝撃吸収によって運搬する製品の破損を防ぐ効果が高いからである。
4-1 緩衝材
ビーズ発泡ポリスチレン(発泡スチロール)、押出発泡ポリエチレン、ビーズ発泡ポリエチレンは電化製品等を段ボール箱に収納する際に用いる緩衝材として用いられている。図23は電化製品の梱包に使われているビーズ発泡成形品である。ビーズ発泡以外にも厚物の押出発泡ポリエチレンを切削して用いられることもある。電化製品の表面保護には薄物のポリエチレンシートが用いられている。
プラスチックの高発泡体は梱包に用いる隙間充填にも用いられている。図24にはDMノバフォーム㈱のコーンスターチ/ポリビニルアルコールの発泡体であり、生分解性がある。
4-2 容器
発泡スチロールの箱は軽量で剛性があり保温性に優れるため、鮮魚等の輸送に多く用いられている。押出発泡ポリプロピレンシートは折りたたんで箱にして容器として用いられる。
5 電気・電子・電線
電気・電子・電線分野では発泡による光線反射特性や低誘電性を活かした用途がある。
5-1 反射フィルム
液晶ディスプレイ等に用いられる反射フィルムには、微細発泡と気泡の延伸による扁平化によって高反射率を達成している製品がある。古河電気工業㈱のMC-PET16)はその代表であり、バッチ発泡によって製造されている。
一方で、押出発泡による微細発泡シートも開発されている。三井化学㈱はアクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン共重合体(AES)が特異的に気泡を微細化させることを見出して17)、反射フィルムとして用途開発している。
アクリロニトリルとスチレンから成る相に比べてエチレンプロピレンゴム相のガス溶解度が高いこととエチレンプロピレンゴム相の分散粒子が小さいことが起因している。図25には参考文献17に記載のポリマーの種類によるガスの溶解度の違いに関するグラフを示した。
5-2 電線被覆
情報通信の高速化、大容量化が進むにつれ、通信ケーブルのノイズ対策が重要になってきている。ノイズ対策として通信ケーブルの層構成の中に発泡層が設けられている18)。図26に通信ケーブルの写真を示す。発泡層の誘電率が小さいことを利用した用途である。
6 建材
6-1 断熱材
住宅等の省エネ性能を高めるために屋根裏、壁の内部、床下に断熱材が用いられている。断熱材にはガラスウール等と並んで発泡製品が使われてる。代表的なものは押出発泡ポリスチレン(XPS)であり19)、他にもビーズ発泡ポリエチレンが用いられることもある。図27にその使い方の図を示した。
6-2 畳
畳の内部には押出発泡ポリスチレンが用いられることが多い。図28に構成の例を示す。藁のみの構成に比べ、軽量で断熱性能に優れる。
7 履物
スポーツシューズの底の部分は従来からEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)の架橋プレス発泡によって製造されてきた。近年のマラソンブームによりフルマラソンや、更に長距離(例えば100kmマラソン)を走るランナーが増え、ランニングシューズに求められる機能が複合化(軽量、安定性、衝撃吸収、反発性)している。
アシックスのソライトは直鎖状短鎖分岐低密度ポリエチレンとその他のエラストマーを複合化して軽量で機械強度にすぐれた発泡体を達成している20)。図29にシューズの構造を示した。
スポーツシューズの軽量化と反発性のために別なアプローチもある。BASFはK2016でTPUのビーズ発泡体を展示し、反発特性のデモを行っていた21)。実際にアディダスのシューズに採用されている(図30)。
参考文献・参考ホームページ
1) トレクセルジャパン㈱ホームページ
http://www.trexel.com/index.php/ja/automotive/instrument-panel-jp
2) 河西工業㈱ホームページ https://www.kasai.co.jp/product/cabintrim/
3)特開2005-7874
4) 東名化成㈱ホームページ http://www.tomeikasei.co.jp/car/
5) トレクセルジャパン㈱ホームページ
http://www.trexel.com/index.php/ja/automotive/control-cover-jp
6) トレクセルジャパン㈱ホームページ
http://www.trexel.com/index.php/ja/automotive/sun-roof-frame-jp
7) 寺本光伸、安達健太郎,豊田合成技報,51,29-30(2009)
http://www.trexel.com/index.php/ja/automotive/sun-roof-frame-jp
8)日立化成株式会社プレスリリース(2017年7月13日)
http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/information/2017/n_170713v2k.html
9 トレクセルジャパン㈱ホームページ
http://www.trexel.com/index.php/ja/automotive/fan-shroud-jp
10) ㈱カネカホームページ http://www.kaneka.co.jp/branch/expand/#c1
11) ㈱ブリヂストンホームページ
http://www.bridgestone.co.jp/products/dp/automotive_components/urethane/ea_pad.html
12) キョーラク㈱ホームページ http://www.krk.co.jp/tech/foaming.html
13) 梶山智宏、高橋知希、高橋信之、マツダ技報,30,109-113(2012)
14) トレクセルジャパン㈱ホームページ
http://www.trexel.com/index.php/ja/automotive/rear-door-carrier-jp
15)発泡スチレンシート工業会HP
16)日本キャップ協会HP
17)古河電気工業㈱HP http://www.furukawa.co.jp/mcpet/
18)特開2012-72415
19)日立金属㈱技術資料「高発泡ポリエチレン絶縁高周波同軸ケーブル」
20)押出発泡ポリスチレン工業会HP http://www.epfa.jp/
21 )㈱アシックスHP
http://corp.asics.com/jp/about_asics/institute_of_sport_science/structural_materials
22)「K2016レポート(射出成形機、成形材料、特殊成形)」http://plastics-japan.com/archives/1817