発泡成形の基礎講座(1) 発泡体・多孔質体

1 発泡体・多孔質体とはどのようなものか

多孔質体とは、細かい孔が多数空いている材料のことを指す。多孔質体の代表的なものに炭やスポンジがあり、孔の内部に物質を蓄える、孔の表面に物質を吸着する、孔のサイズによって通過できる物質・物体を選別する等の機能がある。発泡体はとくに、泡が発生することによってできた多孔質体のことである。

2 自然界に存在する多孔質構造

木材は人類が太古より使っている構造材料であり、強くて軽い特長はその多孔質構造に由来している。図1はヒノキの断面を走査電子顕微鏡で観察した写真である。

多数の縦に伸びる孔は仮導管と呼ばれる水を吸い上げるための流路であり、成長が早い夏場には仮導管は太く(構造は疎)、成長が遅い冬場には仮導管が細く(構造は密)成長するために年輪構造を形成する。木材が水に浮くのはこの多孔質構造の中に空気を蓄えているためである。

図1 SEMで観察したヒノキの構造
兵庫県立農業技術総合センターHPより引用
(http://hyogo-nourinsuisangc.jp/17-zakkan/zakkan-2202.html)

ホタテの貝殻はハニカムに似た構造で、他の種類の貝に較べて非常に軽い。図2にホタテの貝殻の断面写真を示した。この構造は炭酸カルシウムの結晶が少量の有機物で結着されて多孔質構造をなしている。

図2 ホタテの貝殻の断面構造
エムエス・ラボHPより引用
(http://ms-laboratory.jp/shellimage/shell.htm)

ヒトの骨は皮質骨とよばれる緻密質の外壁の内側に海綿骨とよばれる多孔質体が結合した構造を取っている。この構造のおかけでヒトの体重に占める骨の割合はわずか7%である。図3に骨の断面の模式図を示した。

図3 骨の断面構造
一般財団法人日本社会保険共済会HPより引用
(http://www.zenshakyo.org/kokorotokarada/yoboutokaizen/kotsu/)

このように自然界は進化の過程で重量が軽くて強度が十分にある構造を選んできたのである。我々人類はそのような多孔質体を生活の中で活用してきた。

3 工業的な多孔質体の製造方法

多孔質構造を持たせる方法には図4に示すようなプロセスがある。
①溶解したガスから気泡を発生させる方法
②分散させた発泡剤の熱分解や化学反応によって気泡を発生させる方法
③大きい気泡を剪断で分割する方法
④フィラーを分散させたプラスチックを延伸することでフィラーとプラスチックの界面に隙間を生じさせる方法
⑤プラスチックに分散させた可溶性成分を溶出させる方法

図4 多孔質プラスチックの製造プロセスの種類

①と②が発泡成形である。

溶解させたガスから気泡を発生させる方法については、栓を抜いたときのビールで説明されることが多い。すなわち、圧力をかけて溶解させたガスを、栓を抜いて圧力解放することで泡を生じさせるものである。

分散させた発泡剤の熱分解によって気泡を発生させる方法は、食品で例示すると重曹やベーキングパウダー(ふくらし粉)を混ぜてケーキを焼くときがそのケースになる。

ベーキングパウダーは重曹(炭酸水素ナトリウム)を主成分にして、酒石酸やクエン酸のような助剤が配合された薬剤である。重曹は加熱によって二酸化炭素を発生し、ベーキングパウダーは水が加わることで中和反応が起こって二酸化炭素が発生する。

大きい気泡をせん断で分割する方法の例としては、食品で例示すると卵白を泡立てるときがそのケースになる。プラスチックの世界では、例えばサンスター技研㈱の発泡ガスケットシステム(フォームプライ)がある。このプロセスでは、一液ウレタンペースト材料に空気を混合し、塗布した後に加熱して硬化させる。

フィラーを分散させたプラスチックを延伸して多孔質体を得る方法としては、例えば、炭酸カルシウムをブレンドしたポリエチレンフィルムを延伸し、ポリエチレンと炭酸カルシウムとの界面は剥離してミクロボイドを生じさせる方法があり、通気フィルム、反射フィルムとして使用されている1)

可溶性成分を溶かし出す方法としては、ゴムに水溶性気泡形成剤(例えば塩化ナトリウム,でんぷん)を混ぜて成形し洗浄して多孔化する方法がインク透過式印鑑に使用されている2)し、PBT樹脂にペンタエリスリトールをブレンドして射出成形し、成形品を75℃の温水でペンタエリスリトールを溶出させて通気性を持つ成形品を得る方法も知られている3)

4 発泡体の形態 独立気泡と連続気泡

発泡プラスチックとは溶融プラスチックのマトリックスの中に気泡(セル)が多数分散した、プラスチックと気体の複合材料である。発泡体との対比で発泡していないプラスチックの成形品をソリッド成形品と呼んでいる。発泡とは気泡が発生することを表す言葉であり、発泡プラスチックは発泡工程を経て製造される多孔質プラスチックを表す。

発泡プラスチックを特徴つける要素には、①マトリックスのプラスチック素材の種類、②気泡内部の気体の種類、③気泡密度(単位体積当たりの気泡数)、④平均気泡径、⑤気泡径分布、⑥独立気泡率、⑦発泡倍率(発泡倍率は気泡密度と平均気泡径から計算することも可能であるが、比重測定等から比較的容易に得られるため良く用いられる)が挙げられる。

また、実用上の発泡プラスチックには成形方法によって気泡が存在しない表層(ソリッドスキン層)を伴っている場合が有る。その場合にはソリッドスキン層の厚みも重要である。

発泡体には図5に示すように、気泡が連続している連続気泡と気泡がつながっていない独立気泡がある。フィルターのように液体や気体を通す必要があるときや、柔軟性,防音性が要求される用途には連続気泡が用いられる。剛性,断熱性が必要な用途には独立気泡が用いられる。

図5 発泡体の構造 左:連続発泡体,右:独立発泡体

5 身の回りにある代表的な発泡プラスチック製品

5-1 発泡ポリスチレン

5-1-1 押出法ポリスチレンフォーム(XPS)

ポリスチレンを連続的に押出発泡成形したもの、もしくはブロックから切り出した板状または筒状の保温材である4)。50倍程度に膨張させ、厚みが20~100mmの製品が多く、一般建築、戸建住宅、畳等の断熱材として多く使用されている。図6に製品写真を示した。

図6 断熱材として用いられる押出法ポリスチレンフォーム
(ダウ化工HPより引用 http://www.dowkakoh.co.jp/product/styrofoam.html)

5-1-2 発泡スチレンシート(PSP)

ポリスチレンを発泡剤とともに1~3mmの厚みで押出して、ロール状に巻き取ったものである5)。製品が薄いため、Tダイではなく、丸ダイ(サーキュラーダイ)が使用されることが多い。真空成形によりスパーマーケット等で食品を包装する食品トレー等に加工される。図7にPSPの食品トレーの写真を示した。

図7 発泡スチレンシート(PSP)からできた製品例
(デンカポリマーHPより引用 http://denkapolymer.co.jp/catalog/view/700)

5-1-3 発泡スチロール(EPS)

ビーズ発泡法による発泡ポリスチレン成形品である6)。発泡剤を含浸させたポリスチレンのペレットを加熱して50倍程度に膨張させたビーズを金型内に投入し、蒸気で加熱してビーズ間を融着させることで成形を行う。図8に発泡スチロールの製品例を示した。

図8 ビーズ発泡ポリスチレン成形品の例
(㈱JSP HPより引用 http://www.co-jsp.co.jp/product/product03_1_001.html)

5-2 発泡ポリエチレン

架橋発泡ポリエチレンシートは耐薬品性、クッション性に優れるため、野球場フェンス、断熱防水シート、建築目地等に使用されている。無架橋押出ポリエチレンシートは複数枚貼り合せて厚い板に成形、打ちぬきを行って精密機器輸送用の緩衝材として用いられる他、薄肉シート状で表面保護材として使用されている(図9)。

図9 押出発泡ポリエチレンシートの製品例
(㈱JSP HPより引用 http://www.co-jsp.co.jp/product/product01_2_001.html)

ネット状に押出した発泡ポリエチレンはリンゴ等の梱包用に使用されている(図10)。ビーズ発泡ポリエチレンは耐衝撃性に優れるため、電機・電子機器の梱包資材として多く使用されている(図11)。

図10 押出発泡ポリエチレンネットの商品例
(㈱インターナショナル・ケミカルHPより引用 
http://www.interchemix.co.jp/products/luckron/index.html)

図11 ビーズ発泡ポリエチレンの製品例
(㈱JSP HPより引用 http://www.co-jsp.co.jp/product/product02_2_019.html#L)

5-3 発泡ポリプロピレン

無架橋押出発泡シートは段ボール代替や引越しの養生に用いられる。架橋発泡シートはクッション材としPVCや熱可塑性エラストマーと積層されて、自動車の内装材等に使用されている。

ビーズ発泡ポリプロピレンは自動車のバンパー等に取り付けられる衝撃吸収部材やサンバイザーに用いられている。ポリプロピレンの射出発泡製品は、自動車のドアトリム、インスツルメントパネル・コアやパレット等の輸送資材に用いられている。

5-3-1 ビーズ発泡ポリプロピレン

耐熱性と寸法精度に優れ、自動車用バンパーの緩衝材(特に衝突に対する基準が厳しい欧州向け)や家電品・精密機器の緩衝包装材、自動車のサンバイザー部品などにも用いられている(図12)。

図12 ビーズ発泡ポリプロピレンの製品例
(㈱カネカHPより引用 https://www.kaneka.co.jp/recruit/business/03.html)

5-3-2 架橋発泡ポリプロピレンシート

電子線で架橋した発泡ポリプロピレンシートは自動車内装用表皮材と積層されてクッション層として用いられる。発泡倍率は15~30倍の独立気泡の発泡体である(図13)。

図13 架橋押出発泡PPの製品例
(積水化学工業㈱HPより引用 http://www.sekisui-ff.com/ja/html/seihin/softlon_sp.html)

5-3-3 非架橋発泡ポリプロピレン

厚みが概ね1.0~5mmで発泡倍率が1.3~5倍程度の独立気泡の剛性があるポリプロピレンシートであり、梱包資材等に用いられている(図14)。

図14 非架橋押出発泡PPの製品例
(住化プラステック㈱HPより引用  http://www.sumikapla.co.jp/j/main_pd02_html )

5-3-4 発泡ブローポリプロピレン

ブロー成形において発泡させた製品も実用化されている。図15には自動車用ダクトの例を示した。発泡体の軽量化効果と断熱性が活かされている。

図15 発泡ブロー成形品(PP+PE)の製品例
(キョーラク㈱HPより引用 http://www.krk.co.jp/products/car/car01.html )

5-3-5 射出発泡ポリプロピレン

射出発泡成形によるポリプロピレン発泡体は自動車部品の軽量化のために多く用いられるようになってきた。図16には自動車のインスツルメントパネルに用いられた例を示す。

図16 微細射出発泡成形によるタルク入りポリプロピレンのインパネ
(名古屋プラスチック工業展2015 トレクセル・ジャパンブースの展示より)

また、板厚方向に金型キャビティを拡大する「コアバック」法を併用して軽量化と剛性を両立させている。図17にはコアバック法を用いたドアトリムの例を示した。

図17 射出発泡成形によるドアトリム
(河西工業㈱HPより引用 https://www.kasai.co.jp/product/cabintrim/ )

参考文献

1) 特開平05-98057
2) 特開2005-305659
3) 特開2008-7534
4) 押出発泡ポリスチレン工業会ホームページ http://www.epfa.jp/
5) 発泡スチレンシート工業会ホームページ http://www.jasfa.jp/
6) 発泡スチロール協会ホームページ http://www.jepsa.jp/