発泡成形の基礎講座(5) 超臨界流体を使わない物理発泡成形
1 非超臨界ガス発泡技術の基本思想
超臨界流体を用いる微細射出発泡成形は発泡剤である超臨界流体(窒素、二酸化炭素)を精度良く注入することが可能であるが、設備が複雑であるために設備コストが高いという問題点があった。その一方で、化学発泡剤は材料コストが高くなるため、設備コストを抑えた物理発泡技術の開発も多く行われてきた。
それらの技術に共通しているのは、発泡剤である不活性ガス(窒素、二酸化炭素)を「注入」するのではなく、一定の空間に加圧して送り込んで自然に拡散溶解させるため、設備が非常に単純化できている点にある。なお、以下に紹介するプロセスは、超臨界流体を使う必要がない方式ではあるが、技術的には超臨界流体を使用することが可能である。
2 旭化成のプロセス
図1は発泡が目的ではなく、二酸化炭素を溶解させることによる流動性向上を利用した成形技術に関する出願の中に記載されたシステムの図であるが、ガスの溶解方法は発泡成形と共通の考え方である1)。
すなわち、二酸化炭素等のガスボンベから供給されたガスを減圧弁によって所定の圧力に調整し、二段圧縮構造のスクリューを備えた射出成形機にガスを供給し、溶融プラスチックにガスを溶解させる。ガス供給部分ではスクリューの溝が深くなっており、ガスが供給できる構造になっている。
二酸化炭素ガスの供給部分に溶融プラスチックが逆流することを防止するために、逆流防止弁が取りつけられる(図2)。
図3は同じ出願の中に記載されたガス供給部における二酸化炭素の圧力とHIPSに対する二酸化炭素の溶解量の関係を示したものである。この方式ではガス供給部の圧力と溶解量はほぼ比例関係にある。
なお、この例では成形直後の成形品の重量を測り、大気中で24時間放置し、引続き80℃の真空乾燥機中で48時間乾燥した後の重量との差をもって二酸化炭素の溶解量としている。供給した二酸化炭素の圧力を見ると2~13MPaの範囲で行われており、二酸化炭素はガス状態から超臨界状態の広い範囲で試験されているが、超臨界であるかどうかに関わらず、供給部の圧力と溶解量は比例関係にある。
3 三井化学のプロセス
図4に示すプロセスはコアバックを含んでいるが、ガスの溶解に係る部分は上記のプロセスと基本的に同じである2)。ガスを導入する部分のスクリュー溝は深く、この部分における溶融プラスチックの圧力が低くなっている。表1には計量工程(この工程中に二酸化炭素を溶解させる)におけるガス圧力と計量背圧と成形品の状態を示す3)。計量背圧をガスの導入圧力よりも低くして、ガス導入部分の溶融プラスチックの圧力を極小にする必要があることを示している。
表1 特開2004-306296に記載の表
このようにガスの圧力が低いプロセスではガスの溶解量が少なく、微細気泡を生じさせることは困難であり、気泡核を生成させるための助剤が必要になる。
例えば、参考文献3には「反応による核剤としては、化学発泡剤が挙げられる。化学発泡剤は、射出成形機のシリンダー中で分解し、その発泡残渣が発泡核剤となりうる。」、「特にポリオレフィンに対してはポリカルボン酸と無機炭酸化合物の併用が好ましく、特にクエン酸と炭酸水素ナトリウムを併用した物に微セル化効果...」、「これらの化学発泡剤の添加量としては、原料樹脂に対して、0.01~1重量%が好ましい。」と記載されており、無機系化学発泡剤を少量添加することが有効である2)。
4 宇部興産機械のプロセス
図5は参考文献4に記載されている発泡プロセスである。特徴はガスの供給圧力を1MPa以下に限定することで、高圧ガスの規制を回避することを狙ったところである。
2005年に幕張メッセで開催されたIPF2005ではエコプレストとして実演紹介されており、発泡剤として空気から分離膜によって分離された窒素ガスが使用されていた。なお、原料ホッパーを気密化してホッパーにもガスを供給することでガスの溶解を助けている。
供給されるガスの圧力が低いために気泡核形成剤の併用が必要であり、参考文献4には「気泡核形成剤としては、....タルク、炭酸水素ナトリウム(重曹)等の無機物の微粉末;...ステアリン酸亜鉛、...の金属塩;クエン酸、酒石酸等の有機酸等を挙げることができる。」と記載されている。
表2には参考文献4に記載の実施例の表を示した。ここでは射出充填後に金型キャビティを拡張(コアバック)している。ベースのプラスチック素材としてポリプロピレン、気泡核形成剤としてはタルクが用いられている。
表2 特開2007-54994 に示された実施例
5 住友化学のプロセス
図6は参考文献5に示された発泡プロセスの装置である。金型が竪型締である点を除くと前述の3社のものと基本的に同じである。
6 積水化学工業のプロセス
図7は参考文献6に記載された、スクリュー内を通ってガスを供給する仕組みである。スクリューは図1と同様に二段圧縮構造になっている。この方式の特徴はガス導入の経路がスクリューの中を通ることで、常に同じスクリュー溝深さの位置からガスが供給される(図1の方式では計量によってスクリューが後退するとガス供給部の溝深さが変化する)。一方で回転するスクリュー内部を通って高圧のガスを供給するため、精度高いロータリージョイントが必要になる。
7 Sulzar Chemtechのプロセス
図8は参考文献7に記載されている発泡剤(例えば二酸化炭素)の溶解方法である。射出成形機のバレルとノズルの間に多孔質金属からなる発泡剤の浸潤部を設けて発泡剤と溶融プラスチックを接触させることで、溶融プラスチック内部に発泡剤を拡散させる方法である。
必要に応じてスタティックミキサーを組み込むことも可能である。射出成形機のスクリュー・バレルは既存のものを使用することが可能である。図9にスルーザー・ケムテック社のOptifoamプロセス紹介資料8)から引用した写真と装置の断面イメージを示した。
7 東洋機械金属のプロセス
図10には参考文献9に記載されたプロセスにおける物理発泡剤溶解のしくみである。通常の射出成形機に物理発泡剤の溶解ユニットを付加し、多孔質金属(焼結金属)を通して物理発泡剤と溶融プラスチックを接触させて溶解させる仕組みである。このプロセスはIPF2017の東洋機械金属ブースで成形実演された。
8 Demag Ergotechのプロセス
Demag Ergotechによって開発されたErgoCellの設備図10)を図11に示す。このプロセスでは、溶融プラスチックにガスを導入して、ミキサーで撹拌することにより単一相溶解物を得る。
9 マクセルのプロセス
図12は参考文献11に記載のプロセスであり、1本のバレルに2か所のポートを持ち、ボンベから供給されて所定の圧力に調整された物理発泡剤を上流のポートから供給し、下流のポートで過剰な発泡剤を放出する仕組みである。
物理発泡剤を拡散によって溶解させるプロセスは前述のように数多く存在したが、物理発泡剤の溶解量の制御が難しかった。このプロセスでは、下流側のポートから過剰な発泡剤を放出することで発泡剤の溶解量を制御することが可能になる。これがRic Foam Iである。
同社はさらに上流側のポートを省略した構造12)も提案しているが、供給ガス圧力が低く、発泡剤の溶解量が少ないために、材料によっては化学発泡剤との併用が必要であろう(図13)。これがRic Foam IIである。
IKVのプロセス
射出成形機の可塑化ユニット全体を発泡剤のガスで加圧する方式である。可塑化の過程で溶融した樹脂に溶解させて発泡成形を行う13,14)。K2016のARBURGブースおよびIKVブースで実演された。
参考文献
1)再表01/91987 A1
2)特開2002-79545
3)特開2004-306296
4)特開2007-54994
5)特開2002- 178351
6)特開2002-205319
7)特開2006-306098
8)SULZAR TECHNICAL REVIEW 2/2004
9)特開2012-232558
10)Rolf Sauthof,”Physical Foaming with Ergocell”, Blowing Agent and Foaming 2003, 91-100(2003)
11)特開2015-174240
12)特開2016-87887
13) Michaeli W., Krumpholz T., Obeloer D.,Tech. Papers, Region. Tech. Conf. – Soc. Plast. Eng.,2,1019-1023(2008)
14) Michaeli W., Hopmann C., Obeloer D.,Conf Proc Soc Plast Eng,2,1551-1556(2011)