発泡成形の基礎講座(7) プラスチック発泡体の評価方法

1 はじめに

プラスチックの発泡体はプラスチックと気泡の複合体であり、ソリッドのプラスチックとは評価方法に違いがある。ここでは特に発泡体特有の評価項目に対する評価方法を中心に解説する。

2 密度と発泡倍率

発泡プラスチックはプラスチックのマトリックス中に気泡が分散した構造である。発泡体の密度はマトリックスのプラスチックと気泡内のガスそれぞれの質量と体積から、次のような式で表現される。

ρf=(Wg+Wp)/(Vg+Vp)    (式1)

ここで、ρfは発泡体の密度、Wg、Vgは気泡内ガスの質量と体積、Wp、Vpはプラスチックの質量と体積を示す。ガスの質量が無視できるとき、この式は

ρf=(Wp)/(Vg+Vp)    (式2)

と表すことができる。

発泡体における発泡倍率とは、同じ質量のプラスチックが発泡した後に体積が何倍になるかを表すものであり、密度の比の逆数である。プラスチックのソリッド密度は

ρp=Wp/Vp    (式3)

であるから、ガス量が少ないときには発泡倍率(ER)は次の式で表現される。

ER=ρpf=(Vp+Vg)/Vp   (式4)

体積が不明の発泡プラスチックの密度測定は一般に比重計が用いられる。比重とは4℃の水との密度の比(無名数)であるから、比重計で測定された比重を発泡体の密度(単位あり)として使ってかまわない。比重計の測定原理はアルキメデスの原理(浮力)を用い、次の式で表現される。

比重=空気中の重量/(空気中の重量-液体中の重量)

=空気中の重量/浮力             (式5)

図1に比重測定装置の概要を示した1)。図中のMは被測定物である。水槽(1)は秤からは切り離され、水槽に浸漬しているカゴ(2c)は秤に乗っている。試料(M)を皿(9)に乗せると空気中の重量が測定され、水中の浮上防止部材(4A)の下に沈めると水中の重量が測定できる。このようにして得られた2つの重量から比重を測定することが可能になる。なお、水よりも密度が大きい場合には浮上防止部材(4A)の上に置けば良い。

図1 比重測定装置(特開2002-243615の第4図より引用)

一方、コアバック発泡成形品の場合で、形状が平面に近い場合はコアバック前の厚みとコアバック後の厚みの比を発泡倍率として表現することがある。この場合、必ずしも密度の比の逆数にはならない。

なお、射出発泡成形等の方法で成形された発泡プラスチックの多くは、表面にソリッドスキン層(気泡が存在しない層)があり、内部に発泡層がある。したがって、発泡成形品の密度や発泡倍率を議論する際に、発泡層部分のみを指しているのか、ソリッドスキン層も含めた平均値として議論しているのかを明確にする必要がある。

3 気泡径と気泡径分布

発泡プラスチックの平均気泡径、気泡径分布は断面観察によって得られた断面画像を画像処理等の方法から求めることができる。

断面観察にはサンプルを切るあるいは割ることで断面を露出させて光学顕微鏡や走査電子顕微鏡で観察する方法とX線CTスキャンによる非破壊で断層写真を得る方法がある。

刃物を使って断面を切り出す際には気泡を潰す可能性があることを理解しておく必要がある。サンプルを割って断面を露出させる方法では、液体窒素に浸漬させた後にハンマー等で叩くと良い。ガラス繊維等のフィラーを含むプラスチックの場合、破壊の際に繊維が抜けた穴と気泡を区別することが必要になる。

X線CTスキャン法は試料に対して方向を変えて得られた透過画像をコンピュータで処理して三次元の画像にしたものである。医療用のCTスキャン装置は被撮影体(人)が固定されて、X線源が回転するのに対し、産業用では試料が回転する。

また、医療用では精度がミリ単位のミリフォーカスであるのに対し、産業用はミクロン単位の測定が可能なマイクロフォーカスが用いられる。マイクロフォーカスの方がミリフォーカスに比べてデータ数が多い分測定時間は長くかかる(通常数時間)。

顕微鏡観察でもX線CTスキャンでも、得られた断面写真を画像処理して平均気泡径、気泡径分布を計算する。画像処理ソフトは市販のものが使える。例えば旭化成エンジニアリング㈱の画像処理ソフトA像くんのような安価なものでも十分である。断面写真から手作業で気泡径を測り、計算しても構わない。断面が楕円の場合には長径と短径の積の平方根を気泡径として取り扱うと良い。

図2にはガラス30%含有ポリアミド6樹脂の射出発泡成形品のX線CT写真と画像処理によって計算された平均気泡径、気泡密度(単位体積当たりの気泡数)のデータである。ここでは厚み方向に13層に分割して観察した。ただし、X線CTで測定する場合、装置にもよるが数μmレベルの微細な気泡は検出できない場合がある2)

図2 ポリアミド樹脂(ガラス30%)発泡成形品のX線CTスキャンと画像処理によって得られた各層における気泡径と気泡密度

4 独立気泡率・連続気泡率

独立気泡(closed cell)とは発泡プラスチックの内部に存在し、外界から隔離された気泡のことであり、連続気泡(open cell)とは発泡プラスチックの内部に存在するが、外界と通じている気泡のことである。発泡体全体の体積Vfは、プラスチックの体積Vp、独立気泡の体積Vgc、連続気泡の体積Vgoの和で表される。すなわち下記の式となる。

Vf=Vp+Vgc+Vgo    (式6)

ここで、独立気泡率(Cc)、連続気泡率(Co)は以下の式で表される。

Cc=Vgc/(Vgc+Vgo)x100   (式7)

Co=Vgo/(Vgc+Vgo)x100   (式8)

実際に測定する場合には、発泡体の外形寸法から計算された体積である見かけの体積(VA=Vf)と空気比較式比重計によって求められる真の体積(V=Vp+Vgo)が必要になる。ただし、実際に発泡プラスチックを切り出した場合、断面に存在した独立気泡を切り開くことになるため、切断によって生じた連続気泡の補正が必要になる。

連続気泡率S(%)は以下の式で表される。

S=(V-Wp/ρp) x 100/(VA-Wp/ρp)   (式9)

独立気泡率は100から連続気泡率を引けば良い。

ここで、Wp、ρpはマトリックスのプラスチックの質量と密度である。

図3 連続気泡率の計算

一方で現場に簡単に評価できる簡易的な評価方法がある。あくまで相対的な評価であるが、発泡シートの一端を油性のインクに浸すと、連続気泡率が高い場合には毛管現象によってインクが吸い上がる。

5 ソリッドスキン層厚み

ソリッドスキン層の厚みは発泡成形品の断面を顕微鏡で観察し、表層から気泡が存在し始める位置までの距離を求める。成形品の両面にソリッドスキン層が存在し、金型温度等の条件によって両面のソリッドスキン層厚みに差が生じることもある。図4に射出発泡成形品の断面SEM写真とソリッドスキン層の位置を示した3)

図4 射出発泡成形品の断面写真
(山田、村田、横井,埼玉県産業技術総合センター研究報告,第5巻(2007)
の図3より引用)
ここでスキン層Ⅰはスワールマーク(シルバーストリーク)を含む層

サンプル切り出しの際に、カッターナイフを用いると気泡を潰し、ソリッドスキン層のように見えることがあるので注意が必要である。

6 機械特性

発泡プラスチックの機械特性としては通常のプラスチックの試験方法が適用可能である。ただし、試験片の成形条件、切り出し条件によって実際の成形品とは全く別物を評価している可能性があるので十分に注意が必要である。

6-1 衝撃特性

耐衝撃性試験で用いられるのは、アイゾッド衝撃試験、シャルピー衝撃試験、デュポン衝撃試験が挙げられる。

アイゾット衝撃試験は試験片を1点で支えて、ハンマーで叩く方法で、シャルピー朱劇試験は試験片を2点で支えてハンマーで中央を叩く方法である。図5にシャルピー衝撃試験装置の外観図を示した。

図5 シャルピー衝撃試験装置の外観図

アイゾットとシャルピーは試験片固定の治具が異なるだけで、装置の構造は基本的に同じである。図6に試験片の固定方法とハンマーによる衝撃の位置を示した。

図6 シャルピー衝撃試験(左)とアイゾット衝撃試験の試験片固定方法と衝撃の位

アイゾット、シャルピー共に計算式は同じである。破壊に要したエネルギー(E)は、試験片破壊前後におけるハンマーの位置エネルギーの差から求められる。計算式を、式10に示す。

E=WR[(cosβ-cosα)-(cosα’-cosα)((α+β)/(α+α’))]    式10

ここで、

E: 試験片が衝撃で破壊したときの吸収エネルギー(J)

W:ハンマーの質量(kg)

R:回転軸中心からハンマーの重心までの距離(cm)

α:ハンマーの持ちあげ角度(°)

β:試験片破壊後のハンマーの振り上げ角度(°)

α’:ハンマーを持ちあげ角αから空振りさせたときの振りあがり角度(°)

ここで衝撃値aは式11で表される。衝撃値aの単位はJ/m2である。

(注:計算に用いる長さ・幅はcmとmmが混在しているが、数字をそのまま入れてよい。そのために103で調整している。)

A=E/bh ・ 103    (式11)

b:試験片の幅(mm)

h:試験片の切欠き部分の厚み(mm)

発泡成形品の場合に注意すべきことは、ノッチ付きで試験する場合に切欠き部分にはソリッドスキン層が存在しないため非常に低い衝撃値になることが多い。これは発泡成形品の衝撃強さを過小評価することになる。理想的にはノッチ付きの形状で成形して評価すべきである。

デュポン衝撃は元々塗装した板の塗膜の強度を試験する方法であるが、プラスチックの落錘衝撃試験として一般に用いられる。図7に示す装置に発泡成形品をセットし、錘を落下させ、1/2が破壊する高さを求め、そのときの位置エネルギーを破壊強度とする。

図7 デュポン衝撃試験の装置

デュポン衝撃(落錘衝撃)の場合、ソリッド材は衝撃面の反対の面からクラックが入ることが通常であるが、発泡成形品の場合、衝撃面が座屈した後に破壊に至ることが多い。

6-2 曲げ特性

曲げ弾性勾配は発泡体の曲げ特性を表現するのに便利な試験項目である。曲げ弾性勾配には製品厚みは考慮されない。測定方法は以下の通りである。

幅50mm、長さ150mmの成形品をスパン100mmの治具にセットして三点曲げ試験を行う。その際の曲げ速度は一般に10mm/分である。このときの初期の傾きに対して変位10mmにおける荷重を求める。この値を曲げ弾性勾配と定義し、単位はN/cmで表す。

7 断熱性

断熱性を評価する際には熱伝導率が測定される。熱伝導率(λ)は、物質内の熱の流れやすさを示す物性値で移動する熱量(W)、移動する距離(m)、温度差(K)で表される。2点間に温度差があるときに熱が流れるが、その熱の流れやすさが熱伝導率であり、単位はWm-1K-1である。熱伝導率の測定法には定常法と非定常法があり、目的に応じて使い分けられる。

定常法は試料中に定常的な一方向の熱流を作り、熱伝導率を測定する方法であり、非定常法は非定常的に材料を加熱して温度応答を測定する方法である。

図8にJIS A 1412-2に準拠した熱伝導率測定装置の概要を示した。熱伝導率(λ)は試料の厚み(d)、加熱板と冷却板の温度差(ΔT)、熱流密度(q)との間に式12の関係がある。

λ=q・d/ΔT    (式12)

熱流密度(W/m2)は試料の面積当たりの熱流量であり、熱板温度制御装置と温度・熱流測定器で測定される値である。

図8 JIS A 1412-2に規定されている熱伝導率測定装置

参考文献

1) 特開2002-243615

2) 杉尾;後藤;田中;今嶋;秋元、プラスチック成形加工学会年次大会予稿集(2016)

3) 山田;村田;横井,埼玉県産業技術総合センター研究報告,第5巻(2007)