独立技術士は何故稼げるのか

このコラムは、2023年5月7日に日本技術士会山梨県支部で講演した内容をもとに日本技術士会山梨県支部報むけに執筆したものを転載したものである。なお、「支部報」は文章のみの構成であるが、本コラムには講演で使用したスライドも貼り付ける。

1.テーマの背景

多くの技術士がこのタイトルを見て、「何故稼げないか」の誤植と思ったのではないだろうか。技術士の中で独立開業している技術士は8%程度と言われている。多くの独立技術士は稼げていないが、ごく僅かであるが稼げている技術士がいる。その違いを生み出しているポイントを多くの技術士に知ってもらうことは、将来的に技術士として生きていく人を増やすことにもつながる。

2.試験に出ない技術士の義務と責務

技術士を名乗る以上は業務を行う義務がある。厳密に言えば、業務を行わないのに技術士の名刺を持つことも技術士法違反と言える(技術士法第二条)。

技術士の責務は、業務を科学技術と経済の発展に役立てることである(技術士法第一条)。

3.技術士のビジネス

ビジネスとは人の困りごとや課題を解決することである。技術士が業務をビジネスとして行うことが最大の社会貢献であり、しっかり報酬を得て胸を張って活動すべきである。

4.独立技術士の実態

平成25年に行われた技術士報酬アンケートの結果を見ると、驚くことがある。年間売上が100万円以下の技術士が7割を占めている。300万円(それでも少ない数字である)を超えている人は僅か3%であり、まともに稼いでいる人は1%程度と考えられる。

この数字を見て、多くの独立希望者は独立しても稼げないから定年まで我慢してサラリーマンを続ける選択をしている。本当にそれは正しい解釈なのであろうか?

多くの独立希望者が接する「先輩独立技術士」は99%に属するので、そのアドバイスに耳を傾ければ傾けるほど成功が遠のくのである。一方で、1%の人は成功の秘訣を知っているので、1%の人のアドバイスを多くもらえば成功に近づくのである。

5.技術士と他の士業の違い

実は技術士は他の士業に比べて非常に恵まれている。技術士には業務独占が無いので、「定型業務」が無いのである。業務独占という釣堀があるとその「漁場」に集中するが、業務独占が無い場合はそれぞれが大海原に出て独自の漁場を開拓するので、漁場さえ開拓できれば後は一人勝ちできるのである。では、どうすれば独自の漁場を開拓して一人勝ちできるのだろうか。そこで考えるべきなのはマーケティング戦略である。

6.技術士が行うべきマーケティング戦略

技術士が他の士業と圧倒的に違うのは、他の技術士と専門領域が区別化されていて技術士同士がほとんど競合しないところにある。技術士のマーケティングの基本軸は独自のポジショニングである。

マーケティングにはインバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングがある。この両方を行うことで独自の漁場を開拓することができる。

6-1 技術士のインバウンドマーケティング

前述したようにビジネスは人の困りごとや課題を解決することであるが、課題を持っている人を探し出すのは至難の業である。そこで、課題を持っている人に自分を探し出してもらう必要がある。

そこで、どのような課題が解決できるのか、解決能力の根拠は何か、どのように連絡すれば良いのかを明確にして、大量に情報を発信すれば良いのである。

6-2 技術士のアウトバウンドマーケティング

今すぐに課題が無い人でも、課題解決能力が有ることを知っていてもらえば、必要になったときにコンタクトしてもらえる。そのために、自分が持っているリストに対して情報を提供し続けることが有効である。

そのリストを集めることが重要であり、ターゲット層が参加する場(展示会や交流会)に自分自身も参加する必要がある。

7.おわりに

一度の人生をどう生きるかを決めるのは自分自身。後悔しない人生を送ってほしい。